大槻ケンジが描く、世界の哀しさを静かに歌うスプラッターホラー

小説・エッセイ

公開日:2013/11/2

ステーシーズ 少女再殺全談 (角川文庫)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA 角川書店
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著者名:大槻ケンヂ 価格:※ストアでご確認ください

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21世紀初頭、14歳から16歳の少女達を突然死が襲い、数十分から半日のうちによみがえって、人間を食らう怪奇現象が発生した。誰もがステーシーと呼んだこの死体を永遠に葬るには、165以上の断片にその肉体を切り刻み「再殺」しなければならないのだ。

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物語は、渋川と詠子の場合、有田とモモの場合、といった具合に、いくつかのエピソードに分かれて綴られてゆく。

小説好き映画好きのなかには、吸血鬼ものとゾンビものが異常に好きなお方があり、その嗜好にそって当然その手の作品が量産されていくことになる。吸血鬼もの映画の最初はカール・ドライヤーの『吸血鬼』だったか、ムルナウの『ノスフェラトゥ』だったか、あまりはっきり覚えていなくて申し訳ないが、ゾンビものの皓歯はロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』だろう。この映画で、世界中で死体がよみがえりはじめ、べとべとどろどろの内臓感覚でよたよたと歩いては、人に襲いかかってはむさぼり食い、はらわたグッチグチョに露出するという、基本設定はすべて出つくしている。偉いもんである。

本書もそれらの枠組みを踏襲している。だから、ひとまずはゾンビ趣向のホラー小説と言ってはずだ。

しかしどこかが違う。

書かれた言葉の連なりの裏側から、なにか読み手をとまどわせる情緒がにじみ出している。それは悲しみめいたものだ。物語の世界をおおっているのは、どうしようもない悲哀じみた気分なのだ。

親しいものを165の血の塊に切り刻むという行為や、その行為をこれからステーシーになろうとする少女が「あなたが再殺してね」と頼むふるまいには、もちろん哀しさが伴うけれど、ストーリーに託された以上の諦念に似たエレジーがこの本にはある。

エンタテインメントの形を取ったスプラッターの感覚は、言うまでもなく全編に配置され、だがそれは「おかず」である。一番味あわねばならない「ご飯」はその向こう側にあるのだ。ご賞味あれ。


ステーシー化する直前に、少女たちはニアデスハピネスという多幸感に陥る

あなたが再殺して、と少女は告げた

スプラッターはそのままに、どこからか悲しみが漂ってくる