今月のプラチナ本 2013年12月号『もしもし、還る。』 白河三兎

今月のプラチナ本

2013/11/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『もしもし、還る。』 白河三兎

●あらすじ●

異様な暑さのなかパジャマ姿で「僕」が目覚めたのは、砂の上だった。視界に入ってくるのは赤い砂と青い空、そして灼熱の太陽。人影もない広大な砂漠でひとり混乱していると、空から突如、電話ボックスが降ってきた。助けを求めるため、緊急通報用の赤いボタンを押し119番に電話をかけるが、そこで手にした真実はあまりにも不可解で……。過去と現在が交錯する悪夢のような世界から、果たして「僕」は無事に生還することができるのか─。注目の作家・白河三兎による文庫書き下ろし長編ミステリー。

しらかわ・みと●2009年、『プールの底に眠る』で第42回メフィスト賞を受賞してデビュー。12年、『私を知らないで』が「本の雑誌増刊 おすすめ文庫王国2013」でオリジナル文庫大賞BEST1に選ばれ話題に。他の著書に『角のないケシゴムは噓を消せない』『君のために今は回る』がある。

集英社文庫 651円
写真=首藤幹夫 

編集部寸評

 

あなたの“記憶”は“真実”か

目が覚めたら砂漠にいて、電話ボックスが空から降ってきて、そこに閉じ込められ、脱出のヒントは電話だけ……。“わかりやすさ”“入りやすさ”をハナから拒絶するような物語だが、それでもページをめくる手が止まらないのは、主人公・シロの孤立ぶりに、どんどん感情移入してしまうからだ。彼は孤立している、というより、孤立しようとしている。わかりやすい暴力や飢えにさらされてきたわけではない、一見「恵まれた子供」であった彼だが、家族との断絶を常に感じていた。なぜ愛されないのか、なぜ愛せないのか、彼は自分の過去をひたすらに振り返り、“記憶”に閉じこもっていく。この感覚には、思春期を通過したほとんど全ての人が共感するのではないか。そして突拍子もない出来事の連続(それはSFでも現実でも襲い来る)が、“記憶”とは“真実”なのか、揺さぶりをかけ続ける。ファンタジックな設定の中に、実に普遍的な問いかけを込めた作品だ。

関口靖彦本誌編集長。私も年賀状のお年玉くじはチェックしないので、ドキリとさせられました。先月は、いがらしみきお『I(アイ)』にもすさまじい衝撃を受けました

 

乾いた会話が麻薬

おもしろかった! 突拍子もない設定がどんどん繰り出されてくるのに、登場人物がやたらと覚めていて冷静。もちろんストーリーにも牽引されていくのだけど、彼らのシュールで乾いたやりとりが熱い展開とは対照的で麻薬のように引きこまれてしまった。捉えどころがないと思われた状況も中盤以降、各所にはりめぐらされた伏線が明らかになるにつれて、読み手の気持ちもぐっと上がる。不思議な読書体験。テーマやストーリーに重いものをはらみながら、読後はある種の爽快感さえ漂う。過去と現在が交錯するなか、家族って、恋愛って、人生ってこういうことなのかというさまざまな気付きがある。人によって感想がさまざまにわかれる作品だと思うが、読み終わった途端に再読したくなる気分にかられるのは共通しているのでは。ひさびさにページを繰る手がとまらないという経験をした。超オススメ。SFがダメ、ミステリーが苦手という人にこそ読んでほしいです。

稲子美砂人気連載『伊藤まさこの雑食よみ』の書籍化第2弾。『〜日々、読書好日。』が発売に。本を手がかりに各所へ出かけたアクティブな一冊となりました。ぜひ!

 

村上春樹的!と思うのは私だけ?

白河さんはメフィスト賞受賞作家なので、ミステリー畑の作家なのかというと、そこに収まりきれない可能性に満ちた作家だと思う。ジャンルでいえばSFミステリーと謳われているようだが、確かに仕掛けとしてはそうだが、作者がこの構造で伝えようとした主題は、ミステリーの伏線回収よりももっと別のところにあるのだろうと思う。どうみても現実ではありえない、砂漠に落ちてきた電話ボックス。足が切れても痛くないという仮想現実の中で必死で現状把握しようともがく主人公と、過去の孤独な自分と、同じく孤独な恋人のキリの物語。それらが交互に繰り返されていくのだが、張り詰める緊張感と主人公の絶望に似た静かな厭世感ともいえる寂しさは、村上春樹氏の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を連想させた。村上春樹氏の作品は無意識に訴えかけてくる物語だが、白河作品もそれに似ていた。今後が最も楽しみな作家のひとりである。

岸本亜紀女子向け怪談雑誌『Mei(冥)』3号、京都特集で発売中。今年イチオシの長篇『恋地獄』。今話題の花房観音さんの書き下ろし長篇作品。絶賛発売中

 

やみつきになる読書体験!!

久々にSFミステリーのわくわく感を心から堪能! 冒頭の幕開けから斬新。みるみる物語に引き込まれ、あとは最後まで先が読めない展開に翻弄されっぱなしだった。すべてが伏線になっていて、それが繋がっていく様は実に見事。そして本作が素晴らしいのは、砂漠から生還しようとする主人公シロの今の状態と並行して描かれる、キリとの恋愛模様だ。諦めたように生きていたシロは、極限の状況下で自分の本心に気づいていく。119番電話の男が、彼らが迷い込んだ世界について語った「俺たちは相手の噓が見えない。そこがこの世界の最も恐ろしいところなんだよ」「俺たちが共通の真実に辿り着くことは永遠に不可能なのさ」という彼の言葉に、どきっとした。「なら、自分で真実を見つけろ」それは、読み手である私たち自身に投げかけられた言葉だ。一度きりの人生、私は何を信じて生きるのか。読後は、疑うよりも信じて生きたい、生きよう。そう思った。

服部美穂「高橋留美子特集」の読者プレゼントとして、あだち充さんと高橋留美子さんが色紙を描き下ろしてくださいました! なんて豪華! むしろ私が応募したい!!

 

世にも奇妙な爽快感

気づくと砂漠に横たわっていた主人公・田辺志朗。混乱する彼をよそに、空から電話ボックスが降ってくる――。冒頭から強烈なインパクトだ。その奇抜な設定にたじろぐ暇もなく、物語は急展開をみせる。全編にちりばめられた蜘蛛の巣のような伏線や、あまり性格のよろしくない志朗が愛という感情に目覚めてゆく過程を見事に描く。何よりもユーモア感あふれる文章に引き込まれる快作である。一筋縄ではいかない奇妙な爽快感とともに、考えさせられるのは、己の人生。

似田貝大介怪談専門誌『幽』20号を準備中。つい前日は、紀田順一郎氏と荒俣宏氏の対談を取材し、濃密かつ幸福な時間をすごしました

 

まずは一気に、そしてじっくり

冒頭から、まず一気読み。2回目は伏線も含めて、じっくりと読んだ。本書にはいくつかの対比の言葉が随処に出てくるのだが、それは矛盾のうえにバランスを保ちながら成立している社会の歪みともとれるし、視点を変えることで、反転した真実も見えてくる。複雑な人間関係を紐解くためには、過去を振り返るだけではなく、今をきちんと見据えることも大切なのだとも。家族についても考えさせられ、シロとキリの恋愛物語も楽しめた。二度三度と美味しい一冊。

重信裕加話題の某DVD BOX3巻ぶんを衝動買いしてしまったが、いまだに観るタイミングが見つかりません。冬休みに一気見必至です

 

読み応え抜群でした!

このところ、「SFだけど人間関係を読ませる」とか「設定はSFだけど心理もの」といった作品を目にしがちだったので、SFの楽しさを前面に出したミステリー作品である本作がなんだか新鮮だった。砂漠に突然降ってきた電話ボックス。そこでの会話だけでつながっている、主人公と男と女、三者三様の探りあいが、読んでいてとても楽しかった。なんならこの部分だけもっと読んでいたかった。極限の状態で、会ったこともない人との駆け引き、なんてスリリング!

鎌野静華スピリチュアル芸人・パシンペロンのはやぶささんに霊視してもらう。空前のモテ期がくるらしい。ただ気づくかどうかが問題だ

 

世界の機構が明かされる快感

著者が得意とするらしい突飛な設定にまずは驚き、一体どうなるんだろうと先が気になって堪らず、世界にぐいぐい引き込まれながら読んだ。自分の部屋で寝たはずが、起きたらなぜかパジャマでサハラ砂漠、そして天から電話ボックスが降ってくる。ボックスのドアが閉まると信じられない出来事が我が身に起こり……。自分のよく知る世界とは異なるシステムで成り立っているらしい世界で、その謎が徐々に明かされていく快感とスリルに酔いしれた。SFって、楽しい。

岩橋真実先月号でSF&ミステリーの特集をしましたが、新しい書き手のかたがどんどん意欲的な作品を書かれていて豊穣さを感じました

 

悪夢のように美しい砂漠

著者の作品は初めてでしたが、本作でどハマり。過去作も一気読みしました。本作を読みながら思い出したのは村上春樹氏の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。灼熱の砂漠に「ありふれた電話ボックス」(NTTのロゴ入り)が突如降ってくる、という荒唐無稽なシーンからはじまり、カットバックでぐいぐい読ませる。そろそろと体内に流れ込んでくるような文体がクセになるのだ。赤々とした砂漠と、主人公のモノトーンな回想の対比が美しく心に刻まれた。

川戸崇央今月のトロイカではある作品のルーツをたどって帯広~釧路を旅してきましたが、本当に面白かった。趣味にしようと思います

 

この小説には、興奮する

目を覚ますと砂漠にいる「僕」。昨夜、酔いつぶれて帰宅し、インターホンが鳴った記憶がある。空から降ってきた電話ボックスを使って、119番に助けを求めるも、相手にされない。不可思議な世界にいる「今」と、交差しながら明かされていく現実の「過去」。導入からぐいぐい引きこまれ、最後は胸が熱くなった。得体の知れない、しかも先のレールが全く見えない、ジェットコースターに乗ってるような興奮が味わえる。この感覚は、癖になる。

村井有紀子本誌P140~あだち先生&高橋先生、夢の対談取材、幸せすぎました。貴重な色紙プレゼントはホント私も応募したいくらいです

 

沁みる不条理ミステリー

目覚めれば見渡す限りの砂漠、降ってくる電話ボックス、消失する左足。本作は夢か現かわからない世界で起こるミステリーだ。主人公は自分の記憶を辿ることと、電話で特定の相手に電話することしかできない。物語はそれだけ。淡々と繰り返される会話のなかに、特に小説として新しさは感じない。しかし、会話と記憶から出た謎がすべて回収されたとき、大きなカタルシスがやってくる。ネタバレになるので、詳しく書けないのが残念! 白河さんの新境地にやられた!

亀田早希『Mei(冥)』3号絶賛発売中。特集の「京都de視えますか?」ツアーは私も参加したのですが、何も感じず、写らず。残念

 

 

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