げに恐ろしきは人が隠し持つ心理

更新日:2013/11/6

いじめっ娘

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 朝日新聞社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:伊藤潤二 価格:324円

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なぜ、いじめはなくならないのでしょうか。こんなことが、よくいわれます。「いじめられる側にも問題がある」。空気が読めなかったり、人を苛立たせる言動があったり。そんなことでいじめが正当化されるわけではありませんが、本作に収録された「いじめっ娘」では、いじめっ子がいじめたくなる気持ちの動きが、少しはわかるのかもしれません…。

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本作は、『富江』『うずまき』でご存知、独自のホラーワールドでカルト的人気を誇る伊藤潤二の短篇集。収録作品は、表題作の「いじめっ娘」「脱走兵のいる家」「父の心」「記憶」「路地裏」「シナリオどおりの恋」「土の中…」の7編です。

さて、1作目の「いじめっ娘」。主人公・栗子は、ある公園でいつも1つ年上の男の子を見つめ続ける女の子。しかし、相手にされません。ある日、知らない母親から頼まれ、小さな男の子と遊んであげることに。ところが、そのために、憧れの男の子はますます自分から遠ざかることに。そこで、小さな男の子が一緒に遊びたいという気持ちを無くすよう、ちょっとしたいやがらせを始めるのですが…。

この「ちょっとしたいやがらせ」が、栗子に眠っていた本性を少しずつ引き出していきます。いやがらせはどんどんエスカレートし、当初の目的から完全に外れて「いじめっ娘」と化した栗子は、いじめに快感を得るように。げに恐ろしきは、人が隠し持つ心理。最後は、陰惨な結果を予想させる、最高に後味が悪いラストが待っています。

主人公に感情移入をさせる作者の手腕がみごとですが、読み終わった後、自分にも栗子の気持ちの一部が理解できてしまうことに、がく然としてしまうかもしれません。人間の闇の部分を暴き出し、突きつける伊藤潤二作品って、なんて怖いんでしょう。

ホラーらしからぬ人の恐ろしさを描き出す表題作ほか、霊的なホラー作品までをカバーした珠玉の7編を一気読みできる本作。おトクです。


ハツラツとしたかわいい栗子が…

いじめっ娘と化した邪悪な表情の栗子。こわい

ほかの6作品も、人の闇をせきららに描き出す
(C)Junji Ito