素敵なメンツと“いい”食事会を終えた時の様な読後感。知的好奇心をくすぐる1冊

公開日:2011/10/7

一流たちの修業時代

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 光文社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:野地秩嘉 価格:599円

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本編は、「創業者」「アーティスト」「職人」「トップ営業マン」「異なる環境に飛び込んだ者」と5つの章からなり、計15名の“修業時代”にまつわるヒストリーを収録。

といっても、ただ苦しかったり辛かった修業時代を連ねた回顧録ではない。冒頭で著者が述べている“修業時代”の捉え方しかり、彼の取材における指針は明快。「修業時代を脱したと自覚したのは、いつのことか」を「重要な問い」に掲げ、それぞれの人となりを描いていっている。

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その顔ぶれもユニーク。当代きっての成功者ユニクロの柳井正氏を皮切りに、馴染みのあるカレーチェーン店『CoCo壱番屋』の創始者、日本画家の千住博氏が登場したかと思えば、クレイジーケンバンドの横山剣氏が続くといった具合に、多岐に亘るジャンルより“一流”、言わばプロフェッショナルがセレクトされている。列記した知名度の高い彼らは無論、こちらとしては初めて目にする方の節もまた、負けず劣らず。十人十色、その人生は濃く、ぐっとくる言葉、共感を抱く行(くだり)あり、なるほどとうなずくことしばしば。また、へぇ~っと、唸る新しい発見も随所に。

例えば、エルメスやルイ・ヴィトン、シャネルと言った世界的な超有名ブランドのデザイナーが贔屓にする紡績工場が山形県の寒河江市にあるなんて、知らなかったけれど、同じ日本人として、その歩みには拍手を送りたくなったし、一方で日の目を見るまでの苦悶や奮闘の“修業時代”については、栄光を手にした今、当時何が問題でどれがその解決策になったのかを、ご本人が客観的な視線で説いているから、彼らの着眼点、窮地を脱する方法やその糸口の見つけ方から、読者は我が身に置き換えヒントを得ることも。

堅苦しいビジネス書の体ではないので、社会人に限らず、進路を悩む学生さんや主婦の皆さん、誰もが読んで共鳴の一節を見つけられるはず。ヒトに歴史あり、とは常套句ではあるが、15の綴りはまさにそのもの。さらりと一気に読めてしまうテンポのいいものながら、じんわり心に沁みるものがある。誇張のない文体も好印象。このヒューマンドキュメントを読みながら、自分はまだ“修業時代”にいて、“夢”を持つこととその実現への歩の進め方に刺激をいただいた次第です。


目次の前の冒頭「はじめに」の中の一節。著者の明確な取材スタンスが伝わってくる

冒頭の〆の部分には、なぜ著者が修業時代を抜けたと自覚した瞬間に主眼を置いたかの答えが

職人の章には、江戸料理を継承する大塚『なべ家』出身の女将さんの話も。15名の中で女性は唯一この方だけだったな。そういえば。それから“佐藤繊維”、こちらが世界の超有名ブランドのデザイナーを顧客に持つ山形の星です

第4章では、大手のトップ営業マンから起業した方々の人生物語が。彼らの目のつけどころには、学ぶ点多し

最終章。歴代フランス人のみで構成されてきたエルメス本社の役員の座に日本人が就任していたとは。しかも彼は70年代初頭に19歳でパリへ留学と、早期の渡仏ゆえの苦節や紆余曲折も描かれているが、いま同じ地に暮す私にとっては身近に感じられる話題だったり