夏目漱石に芥川龍之介…名作文学の“食”を味わう文豪×グルメ漫画!
公開日:2013/12/4
文豪のグルメ漫画、そういうのもあるのか!
と、『孤独のグルメ』の井之頭五郎風に驚いてみました。
いや、実際その通りである。中年男性がひとり黙々と食べる姿を描くグルメ・ハードボイルド『孤独のグルメ』のヒットに始まる“グルメコミック”ブームだが、牛丼やファストフードなどB級グルメの薀蓄を語る『めしばな刑事タチバナ』、果てはうなぎ料理限定という『う』のように余りにもニッチなところを突く珍作まで誕生し、正直「もうこれ以上はネタ切れだろう」といった感があった。そこに現れたのが日本の文豪とグルメを掛け合わせた『文豪の食彩』である。グルメ漫画、まだまだ奥が深いようです。
食通の新聞記者、川中敬三が本作の主人公である。本社から深川支局に飛ばされた川中は、「美味い物を食べればアイディアが浮かぶ」などと称して数々の名料理店をぶらつくだけの毎日を送っていた。ある日、デスクの黒田より「企画の1本でも出して仕事らしいことをしろ」とせっつかれた川中は、「過去の代表的な文筆家たちが“食”の描写に込めた思いを読み解く企画がしたい」と答える。その場でとっさに思い付いた口から出まかせレベルの案であったが、川中と同じくグルメな性分のデスクからは意外にもあっさりとGOサインが出された。川中の文芸と食を探求する日々が始まった。
夏目漱石が『坊ちゃん』に出てくる2人の女性に込めた思いとは。『仰臥漫録』に刻まれた、病床に伏せる正岡子規にとっての生きる意味とは。さりげない食の風景に、その時代を懸命に生き抜いた作家たちの文化論、死生観が託されていたことを紐解いていく過程に、さながら謎解きミステリを読んでいるような感覚を味わう読者もいるはず。単なる食のトリビアに終始せず、文学を味わい、読み解くという行為が丁寧に描かれているところにこの漫画の旨味があるのだ。食と文学、両方をこよなく愛する人には一粒で二度美味しい漫画である。ぜひご賞味あれ。
記事も書かずにグルメ三昧の新聞記者、川中
食べる前に、まず読む! ここが他のグルメ漫画にはない面白さだ
病床で動けない正岡子規にとって「食べること」とは、生を感じる唯一の瞬間であったのだ
人形焼にかつ丼…極めて庶民的で親しみやすいグルメが取り上げられるのも特徴
川中とデスクの黒田。この新聞社、食通しか雇わないのだろうかと思うくらい、2人ともやたらと食べる