パズラー入門に最適! バラエティに富んだシリーズ短編集第2弾

小説・エッセイ

公開日:2013/12/6

法月綸太郎の新冒険

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:法月綸太郎 価格:594円

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推理作家の法月綸太郎が名探偵として謎を解くシリーズの、第二短編集。警視の父から持ち込まれる事件を著者と同名の息子が解くという、エラリィ・クイーンと同じ方式を用いており、2013年11月現在、シリーズ長編は8作、短編集及び連作短編集は本書を含んで5冊を数える。

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作中の法月綸太郎は、名探偵の造形によく見られるようなエキセントリックだったり影があったりといった強烈な個性は与えられておらず、むしろ「普通の好青年」だ。仕事の〆切に慌てたり、女友達にやりこめられたり、父親に手を焼いたり、かなりキュート。ケレンや芝居がかった演出もなく、純粋なパズラーを気持ちよく楽しめるシリーズと言っていい。

収録作はボーナストラック的な掌編がひとつと、短編が5作。中でも「背信の交点(シザース・クロッシング)」が出色だ。綸太郎と穂波が乗り合わせた特急の中で、男性が急死する。その男性と一緒にいた妻は「あの女のしわざなのね」と呟いた。それはいったいどういう意味なのか──という話なのだが、これはかなり高レベルな鉄道ミステリで心底驚かされた。最初から大きなヒントが読者の前にあるのに、明かされるまで気付かなかったのである。これ、鉄道マニアは気付くんだろうか。ぜひ感想を聞いてみたい。鉄道ミステリというと時刻表トリックとか観光地が舞台の旅情ミステリなどを連想される人も多いだろうが、こんな鉄道ミステリも存在するのだということは、もっと知られるべきだろう。

「世界の神秘を解く男」はポルターガイスト現象のからくりを解く話だが、テレビ出演することになった綸太郎を巡るドタバタがいいコミックリリーフになっている。「身投げ女のブルース」は大きな騙しが魅力の作品。法月綸太郎が直接登場せず、父親の法月警視が息子の推理を語る構成も、短編集の中でちょっとした気分転換になる。「現場から生中継」は、事件が起きた時刻にアリバイを聞かれた容疑者が、ちょうどある生放送の野次馬として画面に映り込んでいたと主張する話。衆人環視のアリバイものとして序盤から興味を惹かれる。そして「リターン・ザ・ギフト」は交換殺人ものだが、もちろんストレートな展開にはならない。

前述したように法月綸太郎シリーズは長編・短編ともにかなり数が多いが、これから読むという方には本書をお勧めしたい。短編集5冊の中で最もクセがなく、けれどバラエティに富んでいるというのがその理由。第一短編集の『法月綸太郎の冒険』には更にアクの強いものがある一方で、穂波さんが活躍する図書館物もあるので、併せて読めば完璧。その先には、豊饒な作品群が手ぐすねをひいているぞ。


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