惨劇シーンが強烈に読者に襲いかかるスプラッターコミック

公開日:2013/12/27

夜見の国から~残虐村綺譚~上

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 日本文芸社
ジャンル:コミック 購入元:Kindleストア
著者名:池辺かつみ 価格:※ストアでご確認ください

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昭和13年、岡山県の小さな村で、「津山30人殺し」という凄惨な大量殺人事件が起きている。5月21日の深夜、かねてから犯行を準備していた同村在住の青年都井睦雄が、祖母の惨殺を皮切りとして、たった1時間半ばかりの間に村民30名を次々に殺害してまわった猟奇的な犯行であった。日本犯罪史上においてもまれな、凶行である。

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異様だったのは事件そのものの様相ばかりではない。犯人・都井が犯行に及ぶさいに整えたいでたちが、ひときわ忌まわしかった。足元を地下足袋と軍用のゲートルで包み、詰め襟の学生服、小型懐中電灯を2本、頭に鬼の角のようにはちまきで締め、首からは自転車用のナショナルランプをさげた。手には猟銃、腰に日本刀一降りと匕首ふたふり、なにかのゆがんだ論理がはかりがたくそこには潜んでいる。

この事件をもとにいくつもの小説が書かれている。たとえば横溝正史の『八つ墓村』。落ち武者の怨念がひとりの青年を狂わせ、世にも凄惨な殺害事件を引き起こすというエピソードは、「津山30人殺し」をモデルとしている。また最近では、町田康の『告白』も、前近代的な村民の中にありながら、強烈な自我を持って生まれてきてしまったために苦悶する青年の叫びを、津山事件を題材にして描いている。

そうしてこの事件をモチーフにしたもうひとつの作品が電子化されたわけである。それが本書。

主人公の睦雄は村の嫌われ者である。肺病やみで性格も内気な彼は、時に木から逆さまにつるし上げられて弄ばれたりもするのだった。しかし彼の内面ではさまざまな心情が渦巻いており、ゆがんだ魂の鬱屈がありありと読者に訴えかける。また、死者の姿が見えたり、なにやら理屈に合わない場面が挿入されたりして、日常的に妄想と現実の区別がつきにくい青年だということも知られてくる。やがて、愛人の局部を切り取るという猟奇事件を起こした「阿部定事件」のニュースが新聞で報じられると、ひどく近親感を抱き、「わしも、大きなこと」をやってやるんだと心に誓う。こうして「大きなこと」である殺人へと次第に彼は導かれていくのだった。

このコミックの最大の特徴は、ラストにかけて展開する殺害シーンのリアルな残酷ぶりである。あるいは頭を割られ、あるいは串刺しにされ、目をそむけたくなるような凄惨な凶行が次々と読み手に迫る。しかもそれらは、恨み辛みを晴らす側面よりも、ほとんどシステマティックと呼べるほど、それだけに背筋をいやなものが走るほど、感情を持たぬかに見える殺戮である。彼を殺人へと走らせたのは、村という共同体の軋轢が形になっただけだとすら思えないではない。恐ろしさ不気味さも度を超していると思った。覚悟して読まれよ。

と、まあまるで脅かすような書き方ばかりしてきたが、世の中にはスプラッター好きという人も存在するわけで、そういう方々には蜜の味といった1冊である。よだれして読まれよ。


睦雄には死者が見える

村の性風俗は乱れていた

肺病やみで兵隊にもなれなかった彼はいじめの対象だ

村を逃げだそうと誓った女にも裏切られた

異様な風体で村人を殺してまわる

残虐シーンに次ぐ残虐シーン

考え得る限りの殺し方のオンパレードだ