「このミス2013」ランクイン作品! 警察の面目は守れるのか?

小説・エッセイ

公開日:2013/12/29

代官山コールドケース

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:佐々木譲 価格:1,646円

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ファッショナブルな店が立ち並ぶ代官山には、多くの人の夢がうごめいている。お金がなくてもこの土地に若者がしがみついたのは、自尊心からなのか、世間体からなのか。彼らはただ、誇れる自分になりたかっただけなのだろう。こんなはずではない自分と戦い続けただけなのだろう。この物語の事件の被害者も同じだ。長野からファッションデザイナーを目指して上京し、専門学校を中途退学。代官山にある家賃3万5千円のアパートで暮らしながら、カフェバーで働いていた22歳の女性・中牧みちる。彼女の身に一体何があったのだろうか。

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『代官山コールドケース』は2010年『廃墟に乞う』で直木賞を受賞した佐々木譲の最新作だ。「このミステリーがすごい!」にランクインした本作は、「特命捜査対策室」シリーズ第2弾。前作の『地層捜査』と同様、未解決の重大事件の捜査にあたる特命捜査対策室の水戸部が事件の真実に迫っていく。

今回再捜査するのは、被疑者死亡のまま送検されていた代官山カフェ店員・中牧みちる殺人事件。この事件は1995年に起きたものだが、17年後に川崎で起きた殺人事件現場に残されたDNAが代官山の殺人事件のものと一致。そのため、当時の事件捜査が誤りであり、変死した被疑者は冤罪だった可能性が出てきたのである。17年前の事件の真犯人を逃して、2度目の犯行を許してしまったならば、警察は面目丸つぶれだ…。水戸部は子持ちの女性刑事・朝香や科捜研の中島や他の刑事と力を合わせながら、過去の事件を追及していく。一体真犯人は誰なのか? 水戸部は事件関係者の嘘を見抜けるのか?

事件関係者に聞き込みを行ない、事件の裏の姿に迫っていくこの物語に派手な展開はなく、ほとんどが聞き込みの場面だ。だが、事件関係者の嘘を見抜き、追いつめていく様には手に汗握る臨場感がある。1つ1つ話をゆっくり聞きながら、その矛盾点を付いて行く刑事達の姿は圧巻。話を聞けば聞くほど、登場人物達の意外な一面が顔を出してくる。自らも刑事と共に聞き込みをしているような緊張感を覚えながら、事件関係者の裏の顔に迫っていく。偏見を持たずに真実を追うのはこうも難しいのか。実際の事件捜査を見ているようなリアリティが感じられる。

事件が起こった1995年といえば、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件など、日本全体が騒然としていた時期だ。本作は、その年に埋もれてしまった事件の謎を当時の代官山の様子とともに明らかにしていく。当時の街の様子を思い浮かべながら、読みたい1冊。


またしても無茶な捜査を命じられる

被害者は夢破れた女性

次第に事件関係者の裏の顔が見えてくる

証言の矛盾に切り込む刑事達の姿は圧巻