いとうせいこう著、新潮クレスト・ブックスのアンソロジーがなぜか講談社から出た?

小説・エッセイ

公開日:2014/1/16

存在しない小説

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:いとうせいこう 価格:1,242円

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「存在しない小説」だなんておっしゃいますが、収録されている六編の中短編、もちろん全部、著者が書いてるんでしょ? と思っていました。しかし、それらを“存在しない”ものとして読ませる仕掛けの手の込んでいること! いやー、驚きました。

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小説以外のマルチな仕事ぶりから、著者が多才な人であることは知っておりましたが、小説家としてもこんなにも器用な方だったとは。文体を変える純文学の実験は、レーモン・クノーの『文体練習』などが有名だけれども、この作品も6編すべて文体がまったく違います。さらに言えば、すごく“それらしく”違うのです。南米を舞台にした作品はボルヘスの翻訳のように、登場人物がドイツ出身の東欧を舞台にした作品は独文学らしく書き分けられていて、するすると作品に入り込めてしまう。

作品の舞台もフィラデルフィアのイタリア人街、ペルーの片田舎、クアラルンプールのチョウキットと中華街、東京のマンション、香港のラグジュアリーホテル、クロアチアのドゥブロブニクとばらばらで、さながら、新潮クレストブックスのアンソロジーのようです。流石は世界文学をガイドしまくった文芸漫談家。翻訳作品が好きな方には楽しい読書になるはずです。

ちなみにお薦めアイコンの「元気になる」や「恋愛もの」はすべて、それぞれ別の作品に付けたつもり。なかには元気になるとは言い難いどうにも暗い話や、血腥く悲惨な話もありますが、でもどれも面白いですよ。


そもそも『存在しない小説』とは何か? 種明かしは章末ごとの「編者解説」にて

文体変幻自在。マレーシアのティーンが主人公のこの作品、とても52歳の日本人男性が書いたとは思えません