全人類の性が転換してしまった奇妙でい静かな物語

公開日:2014/1/24

ぼくは、おんなのこ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:コミック 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:志村貴子 価格:463円

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この本は、『青い花』や『放浪息子』がテレビアニメ化された志村貴子の、デビュー作『ぼくは、おんなのこ』ほか8編をふくめた作品集だ。

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1999年に地球に大カタストロフが起きて、しかしそれは巨大隕石が襲いかかり地球が破滅してしまうような惨事ではなく、なんと「男の人が女の人に、女の人が男の人に」入れ替わってしまう奇妙な現象だった。というお話が表題作『ぼくは、おんなのこ』だ。

ショックによる2ヵ月の昏睡状態から覚めると、主人公・司は女の子になっている。介抱してくれた兄・智の妻であった京子も、当然男性に変化していた。学校へ行くと、「こうなったらもうしょーがない」と割り切っている友達や、「昔から女の子になりたかったんだよね」と告白する友人までいて、みんなそれなりに順応している様子である。

ここに描かれているのは、珍妙な出来事にとまどう少年の、ファニーなコメディではない。ましてや、少女の体に変化したことにときめきながらいささかエロティックでもあるライトノベルふうのファンタジーでもない。

意識が男性であるのに体は女性である、またはその逆。当然思い浮かぶのは性同一障害のケースと同じだということだ。しかし体を反転させて意識と同一したいという欲求が障害となって現れている。

違う言い方をすれば、このままじゃどうでも生きて行かれないような強烈な望みがそこを支配している。

ところが本作の登場人物は一様にひどく覚めているのだ。自分の体にまるで他人を眺めるように接してすらいる。そうなのだ。彼らは体を他者として感じている。

体の「性」が裏返ってしまう。それは恐ろしくショックな出来事なのだけれど、このコミックの世界では、同時に「どっちでもいい」ことなのである。

だからこの物語は描かれているとおりのENDにたどり着いて不思議はない。どうかご自分の目で確かめていただくように願う。


司は2ヵ月の昏睡から覚める

みんな順応し始めている

男性になった京子さんとお風呂に

司はある決心をする