冲方作品の原点、此処にあり! 超次元的能力で紡ぎだすSFハードボイルド!

小説・エッセイ

2014/1/29

微睡みのセフィロト

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 早川書房
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:冲方丁 価格:486円

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記憶を持つ人間は寝ても醒めても悪夢を見る。人に悪夢を見させるのは、いつも過去に対する後悔だ。心の傷は簡単には癒えない。自らの傷が癒えるその時まで、胸の内に黒いものを抱えて生きなくてはならない。

『微睡みのセフィロト』は冲方丁著のSF小説。『マルドゥックシリーズ』や「シュピゲール」シリーズの原型となった作品と言われる本作は、後期作品のモチーフやイメージがちりばめられている。思わず他作品との類似点を探してたくなってしまう、まさしく冲方の原点。彼の作品のファンならば読まずにいられない一作だ。

舞台は近未来。通常の能力しか持たない「感覚者(サード)」と、超次元的能力を持つ「感応者(フォース)」による、人類を二分する世界規模の戦乱が終結して17年。両者は対立感情を内に秘めながら共存している。ある時、世界政府準備委員会の要人である経済数学者が、300億個の肉片に切り裂かれるされる事件が起こった。先の戦乱で妻子を失った「世界連邦保安機構」捜査官・パットは、敵対する立場にあるはずの感応者育成組織「ヴァティニシアン」からの使者で感応者のラファエルとともに捜査を開始。パットは捜査を続けるうち、事件の真相、ラファエルの意外な出自や自らに隠された秘密、そして、妻子の死の真相を知ることになる。パットは過去を乗り越え、事件を解決することが出来るのだろうか。

超能力を武器に捜査官と犯人とのバトルは想像力をかき立てられる。能力を武器に犯人が黒い津波のように無数の蠅を放ったり、同じ顔をした大勢のレーザースーツに身を包んだ女の分身を創り出したり、味方であるはずの捜査官を自由自在に操ったり…。目の前に映像が浮かび上がってくるような描写に圧倒させられる。次から次へと繰り出される犯人の能力にパットとラファエルが如何に戦っていくのか、その展開も見物だ。

だが、捜査官は一枚岩ではない。共存しているとはいえ、「感覚者」と「感応者」は真の意味では和解できていない。パットも「感応者」への強い憎悪、妻子を失った悲しみに17年が経過しても苦しめられている。この物語は彼の心の傷が癒えるまでの物語だ。彼に救いは訪れるのだろうか。パットはラファエルと協力し合うことか出来るのだろうか。

違いがあるからこそ対立が起き、争いは起きる。戦いの中で受けた心の傷はどうすれば癒えるのだろうか。それは、自分自身と向き合うこと、傷をも自分自身の一部であると認めることでしかなしえないのだろう。冲方の歴史小説しか読んだことがない人にもオススメの1冊。


パットの相棒は17歳の少女ラファエル

犯人が数々の罠を仕掛けてくる

恐怖、怒り、過去への悔いと戦いながら事件の真相に迫って行くパット

あとがきで語られる後の作品への影響もおもしろい
(C)冲方丁/早川書房