あなたにはどう見える? マンガ界のカリスマ・フォトグラファーが紡ぐ青春劇!
公開日:2014/2/23
“一億総カメラマン時代”
デジタルカメラにより、だれでも手軽に撮影できる現代は、そう呼ばれたりします。スマホにも搭載され、究極まで日常化したカメラ。自分の眼がカメラと一体化したように感じることもしばしば。観なくても撮るだけで満足ということは意外に多いのではないでしょうか。それは確かに進歩なのでしょうが、カメラ=肉眼となったことで、写真と目に見えるものが同じだと思う人が増えたのも事実です。カメラで撮れるものは、単なる景色。ピクセルの集合に過ぎないのでしょう。
しかし、本作は教えてくれます。単なる景色に、“それ以上のもの”を観ることができるのが人間の眼だと。
舞台は沖縄。カホは修学旅行で訪れたそこでナツという人物を探します。しかし、ひょんなことから出会うのは、ナツによく似たユキという男。色盲であり、粗野で無口なユキ。ナツを知るという彼に連れられるカホですが、次第にユキを取り巻く様々なトラブルに巻き込まれていきます。
終始流れるドライでクールな空気感は、さながら海外のロードムービーを思わせる本作。最大のポイントは、なんといっても余白や背景だけのコマやセリフのないコマが非常に多いということです。しかし、内容が薄いわけではありません。不思議なことに中身はとっても濃いのです。一般的なマンガで言えば、読みごたえというのでしょうが、きっとなにかそれとは違う感覚を覚えることでしょう。
それは単なる景色に過ぎないコマから、さまざまなものを感じとることができるからなのです。本作品の景色や余白には、膨大なセリフや思いが描かれているのです。それはさながら卓越した写真家の作品のよう。
以前レビューした『12色物語』の坂口尚氏はその独特の読後感から、マンガ界の詩人と今なお評されていますが、本作品の上條淳士氏はさしずめ“マンガ界のフォトグラファー”。
人間の眼でしか観ることのできない、繊細でスタイリッシュな本作品。ふと、「色盲のユキの眼には、一体どんな景色が見えているのか」と思いを巡らせてしまいます。
トラブルメーカー、ユキ
セリフはなくとも物語は流れます
シャレにならないトラブルメーカー、ユキ!
果たして、彼の眼にはどう映っているのでしょうか
(C)上條淳士/小学館