昨夜のドラマを原作でおさらい! 身体が入れ替わった母と娘の運命は?

小説・エッセイ

公開日:2014/3/5

今夜は心だけ抱いて

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 集英社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:唯川恵 価格:545円

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 高校生の頃はすでに自分は「大人なのだ」と思い込んでいたが、年を重ねてみると、「なんて子どもなのだろう」と痛感させられることのが多くなった。昔は親にガミガミ言われる生活から逃れるために「もっと大人になりたい」と思ったし、今は次第に増えていくシミの数を数えながら、「若い頃に戻りたい」と願う。人はいつだってないものねだりだ。年代ごとに悩みは尽きない上に、他の世代の悩みなんて理解ができない。もし、今の自分のまま、若い頃の身体に戻れたとしたら、一体何を思うのだろうか。

 唯川恵氏著『今夜は心だけ抱いて』は、母娘の身体と心が入れ替わってしまった事件を描き出した物語だ。2014年3月放送のNHK BSプレミアムにて田中美佐子・土屋太鳳のW主演でドラマ化されるというから、ドラマとともに併せて読んでおきたい。世代の異なる女の見る世界の違いや、それぞれの年代で繰り広げられる恋愛にどの世代の者も共感させられるに違いない。切ないストーリー展開に胸がキュッと締めつけられるに違いない。

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 ある日、47歳の翻訳家・浅生柊子のもとに、12年前に離婚して以来、音信不通だった元夫から連絡が来た。ロンドン赴任が決まったため17歳の娘・美羽を高校卒業までの半年間預かって欲しいということだったが、美羽は家族を捨てた柊子と暮らすことを拒み、話し合いは決裂する。しかし、ある事件をきっかけに2人は、柊子は美羽に、美羽は柊子へと身体が入れ替わっていた。離ればなれになるわけにも行かず、仕方なく同居を始める2人。17歳の瑞々しい身体を手に入れた柊子は30年前にできなかった高校生の恋愛を楽しみ、47歳になった美羽は、中年の肉体に戸惑いながらも、元の体だった時に通っていたカフェでアルバイトを始める。犬猿の中だった2人は互いの抱える悩みを理解しはじめ、次第に距離を縮めていく。彼女達の恋はどうなってしまうのだろうか。2人は元の身体に戻れるのだろうか。意外な展開の数々に最後まで目を離せない作品だ。

 入れ替わる前に関わりの合った人の姿は、全くの別人のようにうつる。美羽の前でツンとした態度しかとってくれなかった同級生の透は、柊子となった美羽には甘えてきて可愛らしい。柊子に対して甘えていた年下の恋人・亮介は、高校生の姿となった柊子の前では、リーダーシップを取り始め、自らを「おじさん」などと卑下してくる。世代によって見える景色は異なっているのだ。

 17歳の世界はさぞかし華やかだろうと思われるが、受験勉強に追われていたり、若いがゆえに危険な目に遭うことだって少なくはない。47歳は仕事やこれからの生活への苦悩があるに違いないと思えるが、いろんな男性との出会いと大人ならではの恋愛がある。「ガキ」「おばさん」と馬鹿にし合っていたはずなのに、だんだんと彼女たちは互いの世界を認め始める。特に、美羽は自分を捨てた母親を少しずつだが、確かに許し始めていく。

 積み上げてきた年月を自分自身で誇れるようになる日は来るのだろうか。年を取る、とは何なのだろうか。全ての女性に読んでほしい世界がこの本の中にある。


エレベーター事故がきっかけで身体が入れ替わってしまった2人

若い身体を手にした柊子は、高校生らしい恋愛を経験する

中年の身体となった美羽も大人の恋愛をする

父と母が別れた理由を知る美羽。ずっと憎んできた母のことを少しずつ理解しはじめる

最後のシーンは胸がしめつけられるほどに切ない。最後まで展開が読めない作品だ
(C)唯川恵/集英社