今月のプラチナ本 2014年4月号『かないくん』 谷川俊太郎/作 松本大洋/絵

今月のプラチナ本

更新日:2014/4/4

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『かないくん』 谷川俊太郎/作 松本大洋/絵

●あらすじ●

ある日、ともだちのかないくんが学校を休んだ。かないくんは親友じゃない。ふつうのともだち。日常に訪れた、はじめての“死”─。谷川俊太郎が一晩で書き上げた物語に、松本大洋が2年をかけて絵を描いたという本書は、死ぬとはどういうことなのか問いかける絵本。企画監修は糸井重里。ブックデザインは祖父江慎。ほぼ日ストアで購入の場合は、特典として「かないくん副読本」(非売品)が付属。詳細は「ほぼ日刊イトイ新聞」(http://www.1101.com/)まで。

たにかわ・しゅんたろう●1931年東京都生まれ。詩人。52年に詩集『二十億光年の孤独』でデビュー。82年『日々の地図』で読売文学賞、93年『世間知ラズ』で萩原朔太郎賞を受賞。著者多数。『マザー・グースのうた』『ピーナッツ』など翻訳も手掛ける。

まつもと・たいよう●1967年東京都生まれ。漫画家。代表作に『鉄コン筋クリート』『ピンポン』『花男』など。『月刊IKKI』で連載中の『Sunny』は2013年5月に英語版が刊行されると、ニューヨークタイムズ紙のコミックランキングで3位になった。

東京糸井重里事務所 1600円(税別)
写真=首藤幹夫 
advertisement

編集部寸評

 

一生、忘れられない絵本

ものすごい絵本だ。絵と言葉が結晶した、透明な石のよう。この石は読者の心に、すり減ることなく残り、輝き続けるだろう。表紙をめくり、扉をめくり、本文を1ページめくるごとに、息を呑む。呼吸を止めて、じっと見入ってしまう。広くて、しずかな世界。その真ん中に、死ぬってどういうこと?という問いがある。「死」はつまり「不在」だから、「死」そのものを絵にすることはできない。ここで描かれているのは、「死」について考える人たちだ。われわれ読者も一緒に、ゆっくりと考えることになる。もちろん、答えは人によって異なるはずだが、本書が触れさせてくれるひとつの答えは、雪に反射した日の光のように明るい。私は涙をこぼしながら、どこかで「うれしい」と感じていた。苦しみや終わりではない、「その先」を感じさせる死。そこに向かって生きていく私は、この本を決して忘れないし、何度も読み返すはずだ。そして多くの人に贈りたいとも思う。

関口靖彦本誌編集長。原画の美しさと奥行きを印刷物に再現した、プリンティングディレクター・森岩麻衣子氏にも拍手をおくりたい。ぜひ現物を見てみてください

 

死ぬってなんだろう

子供であっても大人であっても、本書を一読すると、「死ぬってなんだろう」と、きっと考えたくなる。話しかけたくなる。語り合いたくなる。1ページ1ページ、ゆっくりとページをめくって、活字を追っていくと、それはそのまま自分への問いになって返ってくる。「しぬって、ただここにいなくなるだけのこと?」「いきてれば、みんなともだちだけど、しぬとひとりぼっち」。果たしてそうだろうか。「ひとりぼっち」ってなんだろうか。一人だと答えがでない――。よく人は二度死ぬといわれる。その人が実際に亡くなった〈肉体の死〉と、人々の心から忘れ去られた〈存在の死〉。身近な人の「死」は人生最大級の悲しみだと思うが、それをどう受け止めるか。それはどう生きるかにもつながる大切な問いである。松本大洋さんの絵はどこまでも静謐で、どの年代の人のこころにも沁み通るような優しい寂しさに満ちている。亡くなった大切な人の顔が思い浮かんだ。

稲子美砂インディーズ発のベストセラー、荒木スミシさんの『プラネタリウムに星がない』が文庫化! 酒鬼薔薇事件の未来を小説で描いた衝撃作です。3月25日発売

 

何が始まったんだろう?

その答えはこの本にはない。死んだらどうなるのだろう? 死は怖いの?寂しいの? 私は谷川さんの詩が好きだ。リズムがあって、遊びがあって。まるで子どもが一人で言葉遊びをしているような作品ばかりだ。じゃぁ、子どもが読んだらこの本は分かるんだろうか。心のやわらかい、生まれる前のことを覚えているような子どもだったら。けれど、思う。子どもには、分かっても説明する言葉がないんだろう。だから私は何度も読んだ。読んだら、死んでしまったおじいさんやおばあさんを思い出した。これから死んでいくであろう両親、自分自身を思った。まだ死よりも生に近い自分の子どもたちの未来も思った。そして、やっぱり分からないと思った。けれど思う。死んだら誰かが呼べば、すぐにそこに行ける存在になるのだと。私もそんなふうな風になりたい。思い出してくれる人がいるうちは。あ!死を真に意識した瞬間から“私の物語”が始まるのか!

岸本亜紀3/7に椰月美智子さんの『消えてなくなっても』刊行。こちらも死生観を問う作品で、まさかのラストに号泣! 大事な存在を亡くしてしまったことのある人に

 

隣に在る、透明な「死」

圧倒された。特に終盤の白の透明さ、美しさに息を呑んだ。一読後も、何度も、見て、読んだ。「死」に対するイメージは、「死」に触れる体験をどこで、どのようにするかによって違うのだろうが、私は小学生のとき、一緒に暮らしていた祖母の死によって、はじめて「死」に触れた頃のことを思い出した。通夜で居眠りする兄を見て、姉が笑い、怒ったこと。悲しいのにおかしかったこと。祖母に死が訪れるまでの日々と、祖母が去った後の日々。いつまでも説明できない感覚を知ったこと。それらをこの絵本で思い出した。あのとき、私もたしかに「はじまり」の中にいた。ここに描かれているのは、私の見知らぬ少年と老人、少女の物語だが、彼らの感覚は、私がはじめて「死」に触れたときから今に至るまで、そして、この先に続く「死」の体感ともつながっている。そう思った。きっとこの先も、その時々の自分に、色んな思いをもたらすであろう予感も感じる傑作絵本。

服部美穂 3月7日発売『本当の仕事の作法』内田樹×名越康文×橋口いくよ/著 には就活中の学生も今働いている社会人も膝を打つ仕事の心得がつまってます!

 

子供にこそ読んでほしい

子供のころは絵本が怖かった。怖いから嫌いだったわけではない。大好きだった。好きな絵本には、ただ「楽しい」「嬉しい」だけではなく12色のクレヨンを混ぜ合わせたような説明のできない感情が溢れていて、範疇を超えた「畏れ」を抱いていた。それはぼくの貴重な財産になっている。『かないくん』で描かれる「死」は単純な「悲しさ」ではない。鬼気迫る言葉。恐ろしいほどに静謐な絵から、叫び声が聞こえてくる。言い表し難い想いが、ぎゅうぎゅう詰まっている。

似田貝大介黒史郎氏の新刊『失物屋マヨヒガ』が3月20日に刊行されます。駄菓子や玩具やガチャが好きな方へ。懐かしくて奇妙な物語です

 

大人にこそ沁みる

傍にいたはずの人が、永遠にいなくなる。それを最初に知ったのは、クラスの女の子が亡くなった小学2年生の頃。学校からの道を、友達とずっと無言で歩いて帰った。この物語の主人公と同じように、うさぎの落書きが残ったままの「かないくん」の机を見ていたら、そんな記憶がよみがえってきた。そして、いなくなった人たちのことを、もっともっと思い出してみようとも。日常のなかの言葉と場面からいろんな気づきをもたらしてくれた本書は、大人にこそ沁みる本だ。

重信裕加現在の「七人のブックウォッチャー」書評メンバーの方々が今月号で卒業します。2年間の連載、本当にありがとうございました!

 

死について考えるための本

子どもの頃は、漠然と怖いものだと思っていた。学生の頃は、親しい人に二度と会えなくなる衝撃、そして死ぬときにどれだけの痛みが伴うのか、という未知の恐怖におびえていた。今はおだやかな最期が訪れるといいなと希望しつつ、誰もが絶対通る道だからと言い聞かせている。二度と会えない人とは、新しい時間を過ごすことはできないけど、想い出を大切にすればいいということも覚えた。年々、死は身近になる。ただ、それが少しだけ楽な気分にさせることも事実だ。

鎌野静華今月の「やましげのミカタ」はやましげさんがいつも以上に熱く憤って……笑。やましげさん、お誕生日おめでとうございます!

 

読み返すたび迫ってくる

ほんとうは、まっさらな状態で、本書と向き合ってほしい。心がきっとざわざわして、これまで味わったことがない気持ち、と思うことだろう。ともすれば蓋をされたり、逆にセンセーショナルに扱われがちな〝死〞。まっすぐに、まっさらに、向き合って考えてみるのは、自分と向き合い、自分を大切にすることなんだと思う。死ぬってどういうことか、答えがあるわけではない。でも、死について考えてみるのっていいもんだな、と思えるのだ。読みつがれていく絵本となるだろう。

岩橋真実「ほぼ日」の関連コンテンツもぜひ。「できるまで」に感涙。3月14日発売『校閲ガール』どうぞよろしく! 詳しくは本誌236Pを

 

かないくんは二度死ぬ

私にとって、かないくんは「ただのともだち」ですらない。だが物語を読み返した時、唐突に彼は私の前で“死んだ”。詩と、それを受けて描かれた絵が私にとってのかないくんに命を吹き込み、やがて消しさる。本書の受け止め方は人によって、読むタイミングによって、大きく異なるだろう。だから私はこの本を何度も読み返したいと思う。多くの人に読んでほしいと思う。そして語り合いたいと思う。父や母はこの本をどう読むだろうかと、とても気になった。

川戸崇央『ハイキュー!!』特集を担当。コミックス9巻にして20ページ超に渡る大特集! マンガを読む面白さの原点がつまった作品

 

心が救われた一冊

「『かないくん』ができるまで。」というサイトを拝読した。たくさんの愛が詰め込まれて製作された一冊だと知った。丁寧に、大切に。本書に携わっている方々、全員が尊敬し合って出来た本だと思った。素敵な一冊だ。谷川俊太郎さんの文は、切なくて、とてつもなく優しい。胸がぎゅっとなる。私は最近、死に向き合うことが多くて、そしていつもそこに蓋を閉めたい衝動に駆られる。でもこの絵本は「死」を受け入れてくれるようで。泣いていた心がふわり、救われた。

村井有紀子星野源さんの復帰武道館ライブに伺い、また戸次重幸さん一人舞台「ONE」の千秋楽も無事終了、感動しまくりな2月でした!

 

優しくきっかけをつくる本

もう、あの人がいない。突然それを知らされたときの、悲しみきれない、寂しくも思いきれない感覚を思い出した。日常が過ぎ行くなか、いないことが当たり前になってはじめて、やっと悲しみや寂しさが心に浮かんでくる。普段は忘れてしまうけど、時折思い出す死者への思いを本書はとても丁寧に美しく描いている。この本を開けば、きっと読者は美しい絵の世界で、自分にとっての「かないくん」を優しい気持ちで思い出せる。手元に置いておきたい本だと思った。

亀田早希大ヒット電子書籍『パリの舌人形』が紙の本になりました! 電子作品4篇と書き下ろし2篇の豪華な官能ラブストーリーです!

 

 

過去のプラチナ本が収録された本棚はコチラ

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif