バラエティに富んだ優雅なゴーストストーリー

小説・エッセイ

2014/3/9

私の家では何も起こらない

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : KADOKAWA / メディアファクトリー
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:恩田陸 価格:463円

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 ある一軒の家を舞台にした連作形式のゴーストストーリー、つまり幽霊屋敷の話である。しかし恩田陸が怪談を書くと、こうも優雅に、エレガントになるのかと驚かされる。しかも、バラエティに富んでいる。そしてもちろん、怖い。充分過ぎるほど、怖い。つまり本書は、実に贅沢な恩田版ゴーストストーリーなのである。

 第1話「私の家では何も起こらない」は、周囲から幽霊屋敷と言われている丘の上の家に住む女性作家と、そこを訪れてきた客の会話で始まる。客は、この家では昔こんな事件があった、あんな出来事もあった、と説明するのである。だから幽霊がいるでしょう? と。それに対し女性作家は、すべて否定する。しかし最後に……という物語だ。そして第2話以降、この第1話の客の話に出てきた「この家で過去に起きたできごと」が順に綴られるという趣向である。つまりこれは、ある幽霊屋敷の年代記なのだ。

 読者は第2話以降、その「種類」に驚かされることになる。物理的な恐怖、なんとなく感じる恐怖、幽霊の視点、観察者の視点。どこか寂しさを感じるものもあれば、笑えるものもある。かと思えば「ひっ」と声が出てしまうような恐怖譚もある。幽霊譚にこれほどのパターンがあるのかと瞠目し、けれどどれほど振り幅が大きくても全体から同じ郷愁を感じることに安心し、それがすべて一軒の家にまつわる物語だというところに再度驚くのだ。その郷愁を生むのは、数々の小道具である。リンゴの木、オーブンの中のアップルパイ、ロッキングチェア、うさぎの穴、地下の食料庫、そして何より丘の上の一軒家という設定……昔のイギリスの児童文学を思わせる道具立てが、読者を別世界へ誘う。

 本書の読みどころは、最終的に恩田陸の考える〈幽霊とは何か〉が提示されることだろう。手を替え品を替え読者の前に届けられるさまざまな時代のさまざまなゴーストストーリー。それはただの羅列ではない。それだけ多くのパターンを経たが故に辿り着いた〈幽霊の正体〉には、心の深いところでしみじみと納得してしまった。どうか順にページをめくって、その〈納得〉を体感していただきたい。

 そうそう、本書には南条武則氏の解説が収録されている。文庫が電子書籍になる際、解説が削除されることが多いが、これは嬉しいプレゼント。ぜひこれが通例になって欲しいものだ。ただ、文庫解説が収録されていることが大きな「売り」なのに、買うまでそれがわからないのはもったいない。立ち読みができない電子書籍は、「○○氏による文庫解説収録」の一言を販売サイトの紹介文に入れておくべきだろう。


収録作の目次

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南条武則氏の文庫解説を収録。これは嬉しい!