絶妙のどんでん返しが仕掛けられたホラー短編集
更新日:2014/3/14
中村うさぎの初めてのホラー短編集だ。
ホラーにはいくつかスタイルがあって。血みどろグチャグチャのミート感覚のもの。これは読み手の生理にうったえてくる。身体なんてしょせん血と肉の塊でしかないという違和感と、食べるという行為のグロテスクな正体に気づかされるといってもよい。
怪物(ゾンビなどその典型だが)が襲いかかってくる体のもの。苦痛に満ちた死と、自分もいつおぞましい姿に変わってしまうかも知れないといった、あちら側への恐れを感じさせて、人間の根源的な恐怖を脅かす。
幽霊など、得体の知れない存在に遭遇し、次々と不気味な出来事に見舞われる、想像力を攻撃してくるもの。人間誰しもが抱えているどうしようもない恐怖を増幅させる頭脳型のホラー。
実はもうひとつあって、怪異を美的に造形する耽美派のそれである。このタイプには小説家では泉鏡花、映画でいえばドン・コスカレリ監督『ファンタズム』などのケースがある。
本書はこのうち、3番目のジャンルに相当する。
6つの短編には幽霊あるいは幽霊のようなものが登場し、あるいは3センチほどしかないタンスの裏側にこごまっていたり、顔が女で体が犬という異形の化け物が人を襲ったりする。
ただ、私が読んだ限りでは、不気味な事件を超えて、作者の醜形恐怖みたいなものが物語のバックグラウンドにひっそりと流れている気がした。醜形恐怖というのは、文字通り自分が醜いのではないかと過剰に恐れて不安に陥る心理状態のことだが、ここちょっとネタバレっぽくなるので嫌な人は飛ばしてもらうことにして、この本では語り手こそが死んでいたみたいな展開になるお話が多い。最も醜く描写されるあの世の存在が、自分かも知れないと潜在的に作者は考えているのではないだろうか。
全体的にも、読者を怖がらせるのが真骨頂というより、視点の転換というか、世界のどんでん返しという趣向の、少しばかり文芸的な香りのする、いろんな意味で面白い本だった。
1行目から衝撃的な「幽霊」
山上にはやっと彼女ができたのだが……
犬のように従順で愚かしくさえある女は、やがてとんでもないものに変身する