期待の新人がそっと描く、懐かしくアンニュイな世界

更新日:2014/3/17

夜とコンクリート

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 祥伝社
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:町田洋 価格:540円

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 町田洋の『夜とコンクリート』は、第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作『夏休みの町』を収録した短編集。懐かしさを感じるタッチと、日常とSFが優しく融合したような世界観が特徴だ。

 収録作は表題作の『夜とコンクリート』、『夏休みの町』、『青いサイダー』、そして書き下ろし作品『発泡酒』。

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 『夜とコンクリート』では、不眠ぎみの建築士が、「建物の声を聴く能力」を持つという青年と出会う。青年との短い会話は、建築士の心に、ふわりと小さな安心を落とす。また『夏休みの町』では、ありふれた夏休みを送る大学生たちの前に不思議な戦闘機があらわれ、時空を超えた意外な展開に巻き込まれていく。書き下ろしのショート・ショート『発泡酒』は、同窓会の夜、学生時代に友人が語った言葉を、自分の中だけでこっそり思い起こしてみる、という誰もが一度は味わったような心情を描く。

 この作品群のキーワードとしては「夏」、そして「夜」が目立つ。

 「夏」は青春を思わせる。蜃気楼のようにおぼつかない景色や、熱さで朦朧とした思考回路もイメージさせる。甘酸っぱいことや、特別で不思議なことが起こりそうな予感をもたらす。そして「夜」もまた、人間の内面や過去に静かにフォーカスするという点で、「夏」と共に、物語をいっそう幻想的に演出する。

 ファンタジーを感じさせながら、一方で、人間味のあるストーリーも楽しめる。『青いサイダー』では自分の世界をうまく伝えられない女の子と、近所から煙たがられているおじさんの、微笑ましさと寂しさを共有した交流を描く。

 この4編からなる短編集は、まるで、ノスタルジーな風景を描いたポストカードを眺めるように、遠い記憶をイメージさせ、センチメンタルな「ぼんやり」を大いに味わうことのできる1冊となっている。


建築士がある夜、特殊な能力を持つ青年と出会う。(『夜とコンクリート』)

大学の夏休みに出会ったのは、妙な雰囲気のおじさんだった。(『夏休みの町』)

“シマさん”という名の島と、お喋りする女の子の物語。(『青いサイダー』)

あの遠い夏の夜、公園で友人が語った言葉を思い起こす…。(『発泡酒』)
(C)町田洋/祥伝社