「卵」一人前3個使用の絶品オムライス!日本橋の老舗「たいめいけん」の人情ストーリー

小説・エッセイ

更新日:2014/4/4

洋食や たいめいけん よもやま噺 (角川ソフィア文庫)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA 角川学芸出版
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:Kindleストア
著者名:茂出木心護 価格:※ストアでご確認ください

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 1986年に出版された『たいめいけん よもやま噺』の改訂版である本書。昭和の頃の匂いが香るおやじさんの口調そのままの心地よい1冊です。たいめいけんと言えば、日本橋の洋食屋の中でも老舗中の老舗。日本を代表する一軒であり、文豪池波正太郎や、映画監督の伊丹十三ら数々の著名人が愛したオムライスのある店。そのレシピが冒頭に載っていて、まずは驚きました。ハムライスを包むふんわりとした卵の数なんとひとり分3個! おいしいわけです。ついYouTubeで「たいめいけん オムライス」の神業を検索、十分目で堪能してから読書開始。

 明治時代から存在していた「たいめいけん」に昭和元年に入った親父さんのエピソードの数々はそのまま昭和史。店で働くものが寮生活をしていたり、そこから夫婦が生まれたり。戦時中の物がない生活の中でいかにお客さんを喜ばせるかの工夫。儲かるようになって来て札束を数えるのが大変なので目方で札を「計って」売り上げを数えたり。それから出前の岡持が店の顔だからとピカピカに磨いてあったという下りなど、どんなエピソードもぱっとその光景が目に飛び込んでくるような新鮮さ。昔の人とは観察眼まで現代人にはない優れた才能があったのかと思い知らされます。情緒、風情、人情。そういう言葉で丸ごと1冊包まれている感覚。その「噺」のリズムのよさに落語を思い出しました。食べ物に注ぐのと同じ情熱を凧上げにかけていたり。海外渡航が難しかった時代に、進んで海外へ出かけ、パスポート提示で佳境の厨房に乗り込んで行く姿など、本当にすべてが愛おしいというお人柄。

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 読後、オムライスを作ったのは言うまでもありません。ちなみに、伊丹十三氏はたいめいけんにオムライスを習ったそうですが、ご飯の上にできたオムレツをのせ、それを縦一文字に切り目を入れてとろりとした中身を垂らす「タンポポオムライス」の生みの親なのだとか。文句なしに誰の胃袋をも刺激する1冊。すべての人にオススメします。


かつての出前の姿には、誇らしいものがあったと。お店の動く看板ですもの

「数える」いとも簡単で、シェフの神髄でもある行為

厨房から大海原を望み、せりの事情まで見えてしまうのがすごい