彼岸(あの世)と此岸(この世)の境界は日常の中に。そわりそわりと迫りくる哀しみの恐怖譚8編

小説・エッセイ

2010/11/28

澪(みお)つくし

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:明野照葉 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

えー唐突な上に私事で甚だ恐縮ですが、ホラーやスプラッタが好きです。
でも、マニアじゃありません! スプラッタみながらごはんは食べられ…るかもしれませんがせいぜいそのレベル。餓鬼さながら常にその手のものを求めてさまよってるわけではなくて、なんかこう唐突に、いわゆる怖い系のものが無性にほしくなる時がありまして、まあ恐らくその頻度が他のひとよりちょっとだけ高いくらいなんだと思うんです。

で、今回もそのホラー欲がムクムクと頭をもたげてきたもので、ネットで注文するのももどかしく、いつでもどこでも即座に購入可能! でおなじみ電子書籍の中からこの明野照葉さんの恐怖短編集『澪つくし』を選ばせていただいたわけですが。
この作品集は、あちらの世界のかたがこちらの世界にやってきてしつこくなんかしてくる、というような点と点の関係性を描くタイプのものというよりは、おもに古くからある習わしや言い伝えなどを媒介に、もっと多面的に私たちの日常にくいこんでくるようなかんじといいましょうか。
物語の主人公たちの背中越しに、現実世界でありながらなにかが異なる、白昼夢にも似た世界に目をこらしながら歩みをすすめていくうちに、いつのまにやら彼岸(あの世)と此岸(この世)の境界が曖昧になっていく恐怖、そして同時にうら悲しく切ない感情が沸き起こってきます。
また、この作品には、習わしや言い伝えとともに多くの地名や仏閣名などが登場するのですが、中には実存するものも結構ありまして、鎌倉を舞台にした、辻(この言葉の本来の意味もこの本で初めて知った)の上に建てられた家に住むことになった夫婦の話「つむじ風」に登場する御霊神社の奇妙な面掛行列などは、現在も実際に行われているようで、個人的にかなり興奮をおぼえました(ネットで検索すれば画像や動画がみられます)。
ほか、特に印象深かったのは“くらげ”と呼ばれ嘲られてきた“まれびと”の話「ジェリーフィッシュ」。そして、死にまつわる重い宿命を背負わされた女の哀しみを描く「雨女」(ムメ)。
…あ、言いそびれましたが私、ホラー好きと言っても怖がりなもので、今回の『澪つくし』はほとんどバスの車内や喫茶店で読んだのですが(ひとりじゃ怖くて読めない)、この「雨女」のラストでは思わず涙がにじんでしまい、ちょっと焦りましたね。

目次の一部。これらの作品に、表題作「澪つくし」を加えた全8話を収録。なお、「澪つくし」は「雨女」の続編にあたる

本文のデフォルト画面。個人的にはこの.book形式がお気に入り。なお、この画像は試し読みページの出だしなのだが、これを最後まで読むと先が気になってつい買わずにはいられなくなるかも(経験者談)

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