間 黒男はいかにして、神の手を持つ“ブラックジャック”となったのか

　若さとは何か、と聞かれたらどう答えるでしょうか。ふりむかないことや、ためらわないことでも結構ですが、個人的には“純真無垢であること”というのが大きな部分ではないかと思います。極端に言えば、無知というやつです。若いほうが知らないのは当然ですから、知らないが故に過ちを犯したり、理解しがたい矛盾に葛藤したりするのではないかと思います。若さゆえの葛藤。本作で終始脈打つのは、そういったある種の純真さです。

　本作はヤング、と銘打ってあるように、かの傑作『ブラックジャック』の前日譚にあたります。間 黒男（はざま・くろお）が如何にして、神の手を持つ無免許医ブラックジャックとなったのか。医学生時代を過ごす彼が描かれています。

　ちなみに後のブラックジャックといえば、一匹狼で、治療費は法外。不可能に思えるどんな手術でも、金さえ積めば成功させる文字通りブラックな医者です。反面、莫大な報酬をつきつけるかと思えば、患者の事情によっては無償で施術したりと、やさぐれかつ気まぐれな所も。“無頼派の医者”というキャラは今でこそありふれていますが、その頂点を独走するのがブラックジャックなのです。そんな孤独で複雑な心情を持つ彼の過去ですから、これはファンならずとも、気になるところです。

　舞台となる時代は1968年。ベトナム戦争の最中、日本では学生紛争が盛り上がりを見せていました。混迷の時代において、黒男は医師免許取得を目指し大学へ。さまざまなトラブルに見まわれながら、命の危機に瀕する人々に遭遇します。しかし、彼はまだ医学生。技術は抜群でありながらも、処置をすることは違法となります。

　人命優先を誰よりも願いつつ、その唯一の手段“医師への道”を失うという恐怖もある。これは豪胆な決断を下すブラックジャックと大きく違う部分です。自分の将来と、目の前の消え行く命に若い彼は激しく葛藤するのです。

　もちろん結果として、彼が無免許医となったことを皆さんは御存知かと思いますが…。ブラックジャックが海の見える家で、夜な夜な慟哭していた心情がより深く感じられる気がします。

　また、原作への大きな愛も本作の魅力。絵柄は違えど、確かなブラックジャックの空気を感じるはずです。手塚作品のスターキャラも多数登場します。作品を大きく拡張しつつ、オマージュやファンサービスも抜かりのない本作。現代的な絵柄にためらいを感じている、往年のファンの方にもオススメです。