若者がまとう複雑な空気感を描き切る青春文学のようなコミック

更新日:2016/1/8

森山中教習所

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:真造圭伍 価格:432円

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 青春文学の名作は、若者特有ともいえる繊細がゆえの感情のゆらぎ、将来への恐れ、そして、それに立ち向かうための根拠のない自己肯定感や無鉄砲さを巧みに表現していると思います。若者がまとう複雑な空気感。これをコミックで表現できる稀有な漫画家の一人が、本作の作者・真造圭伍でしょう。

 じつは本作の後に出版された『僕らのフンカ祭』を読んだときに、「まさに青春文学だ」と感じたのですが、『森山中教習所』を読んで強烈な作家性が天性のものだと確信しました。だって、若干22歳でこれだけのものを描き切ってしまうのですから。

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 さて、本作は、男子2人(佐藤清高と轟木)が自動車教習所で自動車免許を取得する物語。男子なら免許、欲しくなりますよね。そして教習所に行く。ところが、本作では未公認教習所に通うことになります。未公認教習所は公認教習所とは違い、教習料金は安いけれども、学科勉強は自習が基本であり、さらには在校生が自分で運転免許試験場に行き、仮免許技能試験や仮免許学科試験、本免許技能試験を受けなければなりません。つまり、「ハンコ」は実質、意味がないのですね。

 と、たいていの若者とはやや異なった選択肢を取る2人が、非常にリアルな“若者”なのです。佐藤清高は、周囲に興味がなく自分のことばかり考え、発言し、行動する。そして、無感動。轟木は流されるままに生きている。主張をしない。ヤクザ。まあ、ヤクザは抜きにして、こういう若者って実際にいますよね。つまり、コミックの世界でいうと紋切り型のキャラクターではない。だからこそ、2人に生きた魅力があり、どんなドラマを展開させるのか、グイグイと惹きつけられていきます。

 作中の出来事としては交通事故、淡い恋愛、山遭難、特攻などがありますが、見てほしいのはやはり2人のセリフや表情、間、つまり空気感。非常にボリューム感があるお得な1冊です。個人的には、30歳を超えて青春時代がちょっと遠くなったあたりの読者層にオススメしたいです。


フッた直後に平然と「車の免許を取ろうと思うんだ」という佐藤清高。女の子は号泣しながらも「ふーん」と言うしかない

主張せず、感情を見せない轟木。ヤクザの社長相手に大胆不敵というか…

未公認教習所である森山中教習所で2人は再会する

コワイシーンもあったりして…