文明開化の横浜を見守る、優しく懐かしいお話

2014/6/1

ちろり(1)

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:小山愛子 価格:432円

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 横浜の喫茶店、カモメ亭を舞台にして、女店主のマダムさんと店の手伝いをしている女の子、ちろりちゃんの生活を追っていくというタイプの作品です。時代設定が明治(作中では、文明開化とだけ書いてある)の横浜だからなのか、それともマダムさんとちろりちゃんの立ち位置設定が似ているからなのか、森薫さんの『シャーリー』を連想させます。

 たぶん、森薫さんがあの時代の英国に強い興味を持ったように、小山愛子さんはこの和洋折衷な港町に高い関心があったのでしょう。特定の時代の、ある街の様子を描くために、世代や身分が違うけれど、精神的には親しいふたりを中心に据えることや、様々な人が出入りする喫茶店や飲食店などを舞台にするのは、とてもうまいやり方だと思います。

 うまいやり方というからには、街の様子、人々の様子はよくわかるのです。が、「どんな話なの?」という問いに答えるのは難しい。後々、ちろりに想いを寄せる実業家の子息っぽい男の子や、マダムと交友のあるお金持ちのわがまま娘などなど、キャラクターは増えていくのですが、彼らが共通の意識に動かされていくようなドラマがあるかというと、今のところそれはない。代わりにあるのは、人物を事細かに観察して描写する姿勢です。

 たとえば第1話は30ページあるのですが、その大部分、ちろりちゃんが身支度をして店の掃除をする場面は18ページセリフなしです。部屋で、水をすくって顔を洗い、髪をとかし、着付けて、たすきを掛け、掃除をする動作を丹念に描いています。開店準備だけで30ページだから、お客とのドラマは期待できない。

 でも、洗面所なんてまだ無くて、くみ置きの水で顔を洗うんだな、とか。着付けの様子だとか。この街に暮らす人は、毎朝こんななんですよ、というメッセージはとても強く伝わってきます。そんな、小山さんが作り上げた精巧なジオラマを見ているような作品でした。


明治にはなっているけれど、鉄道はまだきていない模様

雑巾がけも、着物の裾をちゃんとたくし上げてから

マダムさんとちろりちゃん。ふたりは仲良し

各話のあとには、こんな単ページマンガがついています