一杯のコーヒーに人生を捧げて美味求道するオヤジたちの生き様は、熱く、深く、シブくて香り高い

小説・エッセイ

2010/12/18

コーヒーに憑かれた男たち

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:嶋中労 価格:486円

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美味しいコーヒーをいれることに人生を捧げ、心血を注ぐ男たちの生き様を描いたユニークな人物伝。マニアックな世界なのに、どんどん感情移入してしまうのはなぜ?

主役は4人のカリスマだ。 大阪の襟立博保は、頑固一徹に理想の珈琲を追求する“怒る喫茶店”の主。 吉祥寺「もか」の標交紀は、徹底して合理主義を貫くオールドビーン研究者。

銀座「カフェ・ド・ランブル」の関口一郎は、自宅に5トンの生豆を貯蔵できるエージングルームを持つ。 そして南千住「カフェ・バッハ」の田口護は職人が好む「秘伝」だの「勘の世界」といった曖昧さを否定し、優れたコーヒーの条件をシンプルに明文化した業界きっての理論家。

それぞれ比類なきコーヒーの求道者だが、それぞれ味に対するアプローチの仕方が全く異なるところがおもしろい。コーヒーはこんなにも人を虜にする魔物のような深さがあるのかと唸ってしまう。たとえば生豆を10年以上も寝かせたオールドコーヒーの世界は深淵だ。いわばヴィンテージワインで、ネルドリップを使って丹念に点滴抽出する。とろりとしたエキスのようなコーヒーは、玉露よろしく、舐めるがごとく、すするがごとく味わうのだという。読んでいるだけで、濃厚な香りが鼻先をくすぐるようだ。

文章も豊かで味わい深く、筆者の表現力に脱帽である。ドラマチックなエピソードやコーヒー哲学に、コーヒー愛好家の私は好奇心をくすぐられっぱなしだ。電車の中でiPhoneの頁を繰りながら、自家焙煎の美味しい珈琲が飲みたくてたまらなくなり、喫茶店で続きを読もうと降りた駅で探したが、そんなお店ってすぐには見つからないものですね。

ああ、おいしいコーヒーが飲みたい!

第一章では、永井荷風が西銀座のロンブル(カフェ・ド・ランブル)でコーヒーを飲んだエピソードを皮切りに、昭和文士が好んだカフェー文化も挟まれていて興味深い

「コーヒー物狂いの世界に身を投じ、まるで狐憑きみたいに、コーヒーに骨がらみでとり憑かれてしまった男たち」と著者は表現する。比喩が巧いな。読めば、なるほどと納得する

オールドコーヒーのドゥミタスは、30分くらい時間をかけて飲んでほしいと語る店主。濃茶手前のようなぬるめのオールドコーヒーには、それ相応の飲み方の流儀があるのだ