1950年代後半、人種差別がまだ当たり前だった南部の町で、主人公が感じたことは…

小説・エッセイ

更新日:2012/2/3

アメリカ (上)

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:小田実 価格:648円

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この本を選んだのは、「アメリカ」というタイトルにひかれたから。

アメリカに住んではいても、いろんな意味でアメリカは大きすぎてよくわからないし、私が住むニューヨークはアメリカではない、などともよく言われるので、タイトルに「アメリカ」がつく本は気になる。かつて、「朝まで生テレビ」の存在感ある論客としても知られていた小田実が、あの時代、アメリカで何を考えたのかにも興味があった。

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これは、小田が1950年代末からフルブライト留学生としてアメリカで過ごした体験をもとにした小説。

舞台は人種差別が厳然とあるアメリカ南部の小都市。ホテルもバスもトイレも、白人用と黒人用に分かれている。そんな社会で、そのどちらでもない主人公は、名誉白人のような立場でときには白人や黒人に対して劣等感を抱き、ときには、逆に、自分の肌の色ゆえに彼らに対して優越感を抱きつつ、人種問題を考える。

文学作品の味わいを期待して読むとがっかりするかもしれない。だが、かなり英語ができるにも関わらず、主人公が、友好的で悪意がないアメリカ人に、日本人である自分の気持ちを理解してもらえないいらだちなどは、とても的確に描かれている。当時とは社会的な状況がかなり違うし、南部とニューヨークの差も大きいものの、私もたまに、主人公が感じたようなことを何倍にも薄めたようなかたちで感じることがあるので、共感できる部分は多かった。

当時の日本はようやくテレビが普及し始めたころ。外国に行くのは容易ではないし、しかも、情報は少なく、外国を知りたかったら行くしかなかっただけに、若者の外国に対するあこがれは大きかった。若者が自分の五感で体験することに価値を見いだせた時代だったんだなあと思う。

今はインターネットのおかげで、行かなくても情報が手に入り、外国のこともわかったような気になってしまう。それは便利には違いないが、自分で新たな発見をする余地はあまりない(本当はそうではないと思うが)ように感じられるのは残念だ。

相手の国や文化に対して自分の無知無関心であることを暴露するような発言は、相手をいらだたせる。特に相手が小国の出身者である場合に起こりがち

海外に出て自分が日本人であると意識するようになる。今では、すべての人がそう感じるわけでもないようだが、そういう体験を持つ人はやはり多い