ひんやり迫るおそろしさと読後の美しさ――“ホラー”を読まず嫌いをしているあなたに

小説・エッセイ

更新日:2012/2/3

夜市

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:恒川光太郎 価格:540円

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夜市――そこでは正当な対価さえ払えば、手に入らないものはない。けれど何も買わないうちは、決して、そこから出ることができず、永遠の夜にとじこめられてしまう。

同級生の祐司に連れられ、夜市にやってきた大学生のいずみ。彼は幼いころ、一度、訪れたことがあるという。

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そこで対価として手放してしまった、「弟」を取り戻すため、今宵ふたたび、夜市へと足を踏み入れたのだ。二人は目当ての「人攫い」を探しさまようが…。

提灯のあかり。祭囃子。ねじりはちまき。ひょっとこのおめん。そんな、縁日のようなお祭りを想像させるような夜市は、それゆえに、明りを過ぎれば闇、 というおそろしさも、一緒に喚起させてくれます。お祭りから遠ざかるときの物哀しさ、余興の人々をなぜか異形に感じる瞬間… 日常でわたしたちが簡単に触れることのできる、奇妙さがともなう恐怖というのを、どこかファンタジックに描いた作品。

弟と夢を引き換えにした祐司の悪意のなさも、とても身近で、とてもこわいお話なのに、 でも不思議なことに、読み終わったあとは、夢を見ていたかのようなぼうっとした、幻想感だけが残るのです。

それは2編目の『風の古道』も同じ。道なき道を歩く少年の、そこでの異形との遭遇などが描かれていますが、哀しいはずなのに、なぜか、美しさだけが心に残る。そんな不思議なテイストなのです。

ホラーってこわいんでしょ、ぐろいんでしょ、と読まず嫌いをしているひとにこそ読んでほしい作品です。

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寓話のような雰囲気をもったお話なので、今回はためしに横向きにして1行を短くして読んでみました。けっこう、味が出ました