互いに奪い合って、求め合う奇妙な親子の許されない「愛」【二階堂ふみ×浅野忠信主演映画『私の男』原作】

小説・エッセイ

2014/6/26

私の男 (文春文庫)

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著者名:桜庭一樹 価格:※ストアでご確認ください

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 欠けたものを補いあう関係に幸せが訪れることはあるのだろうか? 間違った方向に補えあえば取り返しのつかない状況に陥ってしまう……。そんな風に考えさせられる『私の男』は震災孤児の腐野花と、花を引き取った腐野淳悟の物語である。2人の関係は親子とはいえ奇妙なものである。

 2人は狭いボロアパートに住み、寄り添うように生きている。しかし、互いが互いを支えているという健全なものではない。古びたアパートで生活しながら、働いていない淳悟を花が養いながら暮らしている。心も体も求めあい、いつも何かを埋めるように寄り添っている。親と子の禁断の愛、近親相姦という簡単な言葉では片付けることができない奇妙な親子の関係が描かれている。

 物語は花の結婚が決まるところから、花が子どものころまで話が遡ってゆく。1章ごとに花であったり、淳悟であったり、その他の登場人物だったりが物語の視点となる。視点が変わるごとに花と淳悟の気味の悪い関係が浮かび上がり、読む者に嫌な気分をうえつけてゆく。その嫌な気分は解決することはない。花と淳悟の関係だけでも、気味が悪いのに殺人事件も起こるという実際ではありえないような展開だ。

 しかし、嫌悪感を抱きながらも妙に腑に落ちる部分も多い。欠けたものを補いあっているように見える2人だが、互いに奪い合っているようにも見える。奪い合い求め合うことで空っぽだった心が満たされているように感じる。そう思うと花が父親のことを「私の男」というのも納得できる気がする。自分の満たされない部分に淳悟が入り込んでゆくのだから、それは「私の男」という所有物のような呼び方で間違いないだろう。

 人間の描写も素晴らしいけれど、物語の展開も飽きさせない、中盤、殺人事件が起きるが真相が気になってしまい、ついつい読むのを止められなくなった。

 最後まで読むとさまざまな真相がわかり、花と淳悟だけではなく登場人物全員の心理がわかる。真実が見えてくると誰もが完全には憎めず、嫌悪感が薄れてゆく。万が一、嫌な気分になった場合でも最後まで読むことをオススメしたい。最後まで読むともう一度、最初から読んでみたい。そんな風に思わせる1冊だ。


花が引きとられて⒖年後から物語は始まる

花と淳悟が持っているカメラ。中のフィルムには殺人者が写っている。果たして写っているのは、花なのか? 淳悟なのか?