【直木賞候補】女のずるさ、あやうさを突きつけられて逃げられない

小説・エッセイ

更新日:2015/9/29

男ともだち

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Kindleストア
著者名:千早 茜 価格:※ストアでご確認ください

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 男女の友情って成立すると思う?

 なんて質問はそこらじゅうでかわされていますが、そんなもんは人による、としか言いようがないと思います。当人の性格ということではなく、相手との関係性。

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 わりとまんべんなくフランクに男友達をつくれる人もいれば、「男女の友情なんてないと思ってたけどこの人だけはちがうな」という相手がいることもある。前者はわりと問題ないと思うのですが、厄介なのはおそらく後者。「彼氏とは別枠でとても大事な男の子」がいる場合、それは果たしてただの男友達といっていいのか? という気もします。

 作中で主人公・神名葵もいわれるし、自問したりもするわけです。男友達って「なんかずるい響きだな」と。

 そう。ずるい。

 男友達という存在のずるさ。そして神名が無意識に発露している女としてのずるさ。そういったものがこの小説では赤裸々に描かれています。

 イラストレーターの神名には、同棲中の彼氏がいて、身体だけとわりきった医者の愛人(既婚者)がいて、そして大学時代からの、“絶対にない”男友達(先輩)がいる。

 浮気に罪悪感を感じない。自分はそういう人間だ、とわりきってしまっている神名。その境界線はどちらかというと曖昧にしがちだけど、でもたぶんだからこそ、絶対にそういう関係にならない男友達・ハセオの存在はトクベツで、彼女にとってハセオは唯一絶対の聖域。自分を理解してくれ、女扱いもして甘やかせてくれる、だけど男女の関係になってもつれることもない。幻滅もしないし、永遠に失わない。それは大人になってしまったからこそ、とても尊い存在です。

 ただ、そういう関係性の相手には恋心に「似た」ものがまじることもある。

 女同士の友情が、とくに思春期、恋愛に似た独占欲が生じるように、心が傾きすぎると相手に依存してしまう。それを恋と錯覚して、まちがって一線を越えてしまったとたん、すべてを失ってしまったりする。だから適切な距離はきっと必要。お互いに恋人がいることも。

 その均衡が崩れかけて、ゆれる神名の心情にはたぶん多くの女性がぐっと心を掴まれ共感するはず。

 といいつつ、正直わたしは、神名が好きではありません。共感もするし、言っていることはとても理解できる。だけど「ああ、女だなあ」とつくづく思ってしまったから。いわゆる「女の子」みたいなものを心のどこかで嫌悪しつつ、誰よりも常に女である神名に、つくづく「ずるいよなあ」と思ってしまう。

 でも、それはたぶん、同族嫌悪。自分のなかにも彼女と同じむきだしの感情が潜んでいるから、それをまっすぐにつきつけてくる彼女の言葉ひとつひとつに、ゆさぶられ、心がざわつかされるのです。


ゲイのアキラ君の「欺瞞」という言葉はなかなか鋭く刺さります

相手が異性というだけで、どこか不確かであいまいになる関係

個人的に、美穂のこの台詞が「女同士」を如実に表していて好きです

一線を越えて失うもの。でもそれでも手に入れてみたかったもの