男の娘? BL? 衝撃の男女逆転いにしえストーリー

公開日:2014/8/2

とりかえ・ばや(1)

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:さいとうちほ 価格:432円

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 紫式部は腐女子、清少納言はブログ女、紀貫之はネカマ、かぐや姫はツンデレ…。「萌え」も「BL(ボーイズラブ)」も「男の娘」も、日本のオタク文化の原点は今から1000年前に既に萌芽していたといっても過言ではあるまい。いうならば、今起きている流行はリバイバルブームに過ぎないのだ。たとえば、多くの物語に大きな影響を与えた『源氏物語』で光源氏は幼女・若紫に「萌え」を感じて妻に娶ったわけだし、章のあちらこちらに「BL」的な描写も散見される。今だからこそ、日本の古典文学をモチーフにした作品の魅力にやみつきになってしまうのだ。

 さいとうちほ著『とりかえ・ばや』は、平安時代後期に書かれた作者不明の物語『とりかへばや物語』を元としたコミックだ。古典をベースにしてはいるが、主人公姉弟たちの心の葛藤は今に通じるものがある。おまけに「萌え」要素もたくさん。フラウ漫画大賞で見事「麗しの少女マンガ賞」を受賞するのも納得の物語だ。

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 舞台は平安時代。権大納言藤原丸光の2人の妻が、同じ日に美しい女の赤ちゃんと男の赤ちゃんを産んだ。しかし、彼らの性格はまるで反対。雄々しい性格の女の子・沙羅双樹と内気な性格の男の子・睡蓮は、その天性の性格のため、男児は「姫君」として、女児は「若君」として育てられることとなる。やがて沙羅双樹は、男として宮廷に出仕し、瞬く間に才能を発揮し、出世街道を突き進む。その一方で、女装姿の「姫君」も女性として女東宮に出仕を始める。大きな秘密を抱えながら、過ごす日々の中で2人の運命は一体どうなってしまうのだろうか。

「男でも女でもない私は一体何者なのだろうか」。沙羅双樹は宮廷に出仕する中で男としての役割を果たす中で自分という存在の不安定さを感じる。周囲の人間の中にも沙羅双樹が女なのではないかと疑い、その秘密を暴いてやろうと矢を放ったり、縁談を薦めたりする者も現れる。仕事をする幸せとの乖離の中で苦しむ彼女の姿は、現代の女性にも通じるところもあるのではないか。

 そんな苦しみを分かち合える唯一の存在が弟の存在であるというところに胸がアツくなる。入れ替わったことによって互いにあらゆる苦しみを抱えながら、時には人と恋をすることもある。睡蓮は、女東宮にお使えする中で彼女を一生支えたいという思いが生まれていく。その思いを強く持つことで今まで内気で人と関わることが苦手だったはずの睡蓮は確かに成長していっている。一方で、沙羅双樹は友人である石蕗との関係から目が離せない。女好きである石蕗は、なぜか睡蓮よりも沙羅双樹に興味をそそられる自分に「男色となったのか」と不安を覚える。戸惑いを隠せないでいるさまは実にいじらしい。ともに出世街道をひた走るライバルである沙羅双樹への思いに彼はどう向き合うのか。そして、沙羅双樹は自身が女であることを隠し通すことはできるのだろうか。

 女としての役割。男としての役割。現代で「男女平等」が叫ばれようと、「女であるが故の悩み」「男であるが故の悩み」が減るわけではない。『とりかえ・ばや』は現代人の悩める人の心を映し出しているかのようだ。「男の娘」や「BL」的な要素に萌えるばかりでなく、どこか共感させられる一冊は仕事に頑張る全ての女性たちに捧げたい作品だ。


女の子・沙羅双樹と内気な性格の男の子・睡蓮(1巻)

沙羅双樹は宮廷に出仕するようになる。そこで出会う親友・石蕗(1巻)

女であるのではないかと疑われた沙羅双樹に縁談が舞い込む(2巻)

沙羅双樹の妻と密通してしまう石蕗(3巻)

石蕗は沙羅双樹への思いが堪えきれずにいた(3巻)