日本の原風景を思い出すような、心優しき妖鬼の物語-『生き屛風』

小説・エッセイ

更新日:2011/10/23

生き屏風

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA / 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:田辺青蛙 価格:483円

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■生き屛風/田辺青蛙/角川書店

県境に住む妖鬼の皐月は、奥方の霊が憑りついたという屛風の相手をしてほしいと頼まれて…。「生き屛風」
次郎は、庭にやって来た人間の言葉を話す不思議な猫に、雪になりたいとお願いする…。「猫雪」
里の娘から恋の相談を受けた皐月は、恋多き狐妖の銀華の元へ、一緒に相談に行くことに…。「狐妖の宴」
3作品、収録されています。

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私がこの本を読んで真っ先に思ったことは、皐月をはじめとする妖や屛風に憑りついた霊よりも、生きている人間の方がよっぽど残酷で恐ろしい、ということです。

皐月、とても思いやりがあっていい人(妖?)ですよ。生きている馬の首の中でしか睡眠をとれないという恐ろしい事実もありますが、ワガママで口うるさい屛風の奥方の相手もしっかりするし(生き屛風)、怪我をした次郎の手当ても丁寧にするし(猫雪)。それに人間の娘の恋の相談にものってあげるんです(狐妖の宴)。結局恋の悩みに関しては自分の力ではどうにもならなかったので、狐妖の銀華に手助けしてもらうことになったんですけど…。

私が特に気に入ったのは、「狐妖の宴」です。でも、狐妖の銀華が教えてくれたヤモリの黒焼き、恋には全く効かなかったんですよね。そのクレームを、なぜか皐月が受けることになってしまって(本当なら銀華に言うべきことだと思うのですが…)。だけど皐月は、娘に散々なことを言われても怒らないんですよね。かなりひどいことを言われてるのに…。そういう点でも、皐月って本当に優しくていい人(妖?)なんだなぁ、と思いました。

読んでいて、とても懐かしい気持ちになりました。ひょっとしたら一昔前の日本では、本当に人間と妖が一緒に暮らしていたのかもしれないなぁ…なんて思ったり。日本の原風景を垣間見たような作品でした。


3作品収録されています

なぜか梅の実を食べ始めた屛風の中の奥方。ほんと、どこから取り出したんでしょうね?

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