昭和を生きた文士や粋人との味のある交流を描いた洒脱な日本版ボエーム。白州次郎ファンも必読!

小説・エッセイ

2011/1/14

花鳥風月の科学

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:松岡正剛 価格:648円

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昭和の直木賞作家で、文化庁初代長官も務めた今日出海の手による人物交友録。文学の師友、酒の友、また政治家など、昭和の前半に名を馳せた人々との交流が、洒脱に描かれている。

「酒友酒癖」の章では、三好達治や大岡昇平に連れられて飲むうちに、酒に強くなかった著者がナメるように少しづつ酒を飲み始め、鎌倉に引っ越してからは知の雄、小林秀雄と毎夜、おでん屋へ通ったエピソードを通して、往時の文士の付き合いが語られている。

その付き合いは、まさに日本版ボエームだ。また、鎌倉文士の夫人たちの様子が語られた「鎌倉夫人」という章もあり、ことに久保田万太郎の元芸者だった若い夫人の芸達者ぶりは小気味よく楽しい。

そしてこの本は、昭和史を生きた英国仕込みのジェントルマン、白洲次郎ファンにもおすすめ!

著者と白洲は幼友達。「野人・白洲次郎」と題して、竹馬の友ならではの視線で、遠慮無く、しかし友愛に満ちた文章で白洲次郎という希有な人物の特性をあぶりだしている。容姿に引っ張られて上滑りな評論が多い他の白洲本には見られない痛快さだ。次郎が妻の随筆家、正子と晩年に暮らした鶴川の百姓家に静養に行った折りの描写もある。ここは現在、「武相荘」として公開されていて、私も訪ねたことがあったので、文章から浮かび上がる次郎の農作業姿がリアルに想像できて、ひときわ感慨深かった。

東大仏文学教室の辰野門下生たちとの濃う理由を描いたのが、「辰野門下の旦那たち」。辰野先生は小林秀雄の才を見抜き、仏蘭西から届く新刊書をページも切らずに小林に貸し与えていたそうだ

元公爵で総理大臣も務めた「近衛文麿」への言及は、一転、評価が厳しい。歴史の教科書でしかしらない人物だが、今日出海の文章を読むと、当時のいらだちや空気感が匂い立ってくる