実はワガママ? 『花子とアン』ヒロインの“腹心の友”白蓮の本当の姿とは

小説・エッセイ

更新日:2014/8/25

告白手記でよみがえる「白蓮事件の真実」【文春e-Books】

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ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:文藝春秋 価格:199円

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 「もう現在の境遇には耐えられない。これまで何度自殺しようと思ったか知れない。いまの状態から一刻も早く私を救い出して」。こんなにも情熱的な恋文を書いたことがあるだろうか。こんなにも人を深く愛したことがあるだろうか。NHK朝ドラ『花子とアン』でヒロインよりも茶の間の注目を集めている、ヒロインの“腹心の友”葉山蓮子。そのモデルとなった柳原白蓮(本名:燁子)の愛を貫いた人生に憧れを抱いてしまう女性は少なくはないだろう。九州の石炭王と結婚したものの、愛のない生活に苦しむうちに年下の青年・宮本龍介と恋に落ち、思いをとげるため駆け落ちした白蓮。姦通罪として問われるかもしれないことを恐れず、自らの愛を貫いた彼女の人生とはどんなものだったのだろうか。ドラマでは描かれていない真相とは一体どのようなものだったのだろうか。

 『告白手記でよみがえる「白蓮事件の真実」』には、龍介との駆け落ち事件「白蓮事件」後の昭和2年に白蓮によって発表された幻のエッセイ『我が恋愛観』、昭和42年に夫・龍介が事件の顛末を記した『柳原白蓮との半世紀』、『花子とアン』放送開始後、白蓮の娘が母の素顔を語った週刊文春の記事が掲載されている。この本を手にとれば、ドラマでは知り得なかった「白蓮事件」の真実が今よみがえる。

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 白蓮は九州での石炭王とのやりきれない生活を著作『火の国の恋』の中でこう綴っている。「子どももいないというふれこみだったのに、思いがけず男2人女1人の子がいて、“おかあさん”と呼ばれた。その上、京都にはお里という妾を置いて旅館を経営させ、家には女中頭のおさいが眼にあまる専横な振舞いを見せ、家の実印まで握って、正妻の座をしのぐ勢力をもっていた」。だが、こんな生活が白蓮の才能を開花させたのも事実だ。彼女は鬱屈した生活を次のような歌として詠んでいる。

「ゆくにあらず 帰るにあらず戻るにあらで生けるかこの身死せるかこの身」。

 そんな白蓮の様子に宮本は惹かれていく。「私は燁子のもつその個性に次第にひきつけられていくような気がしました。これは私が他の女性に対してもつことがなかった気持ちでした」。

 石炭王・伝右衛門との性行為を拒んでいたとの話もある白蓮だが、元々恋の噂は常に絶えなかったらしい。陸軍中尉藤井民助や九州帝国大学の久保猪之吉教授とは歌会やサロンでの交流も多かったようで、白蓮から多くの恋文が送られたようだ。

 だが、石炭王は決して冷淡な男だったというわけではないらしい。ドラマでは石炭王が蓮子に「惚れたのは顔と、華族の身分だけだ」と言い放つシーンがあるが、駆け落ち事件を起こした後も、彼女を責めないように周囲に命ずるなど、石炭王の愛が感じられるエピソードも収録されている。金にものを言わせていたのは事実なようだが、白蓮のワガママはいくらでも許していたらしい。たとえば、白蓮の欲しがるものは何でも買い与えたという。唯一買えなかったのが、福岡県糸島市の箱島という小島。それは、国有地であったため、白蓮が欲しいと言っても無理だったようだが、逆に言えば、それ以外は白蓮が欲しいものは何でも与えていたということなのだろう。石炭王は、愛の表現の仕方が下手な不器用な男だったのかもしれない。

 この本に収録された資料はどれも興味深い。「思はぬ人の妻! それこそ地獄ですわ。それは浮き川竹の遊女よりももっと可哀想な身の上だと思ひます」という過激な言葉が踊る「我が恋愛観」にも白蓮という女自身をありありと映し出していて面白いし、他の資料も白蓮という女に迫っている。ドラマでは見られなかった部分のそんな白蓮の姿を垣間見ると、ますます朝ドラを楽しくなりそう。『花子とアン』ファン必読の1冊だ。


白蓮の当時としては過激な恋愛観を知ることができる

宮本が病に倒れ、彼を養っていた時期も?

白蓮のことを一番に理解してあげていたのが、宮本の存在だったのだろう味

娘から見た白蓮の姿も興味深い