里中満智子が描く、ツタンカーメンの妻の壮大なる叙事詩

更新日:2011/9/6

アトンの娘 (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 里中プロダクション
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:里中満智子 価格:324円

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「アリエスの乙女たち」「長屋王残照記」を描いた、里中満智子の古代エジプトロマン。

  
舞台は古代エジプト。

エジプト新王国時代の、第18王朝の君主ファラオであったアメンホテプ4世の正妃・ネフェルティティの三女であり、君主・ツタンカーメンの妻であるアンケセナーメンのお話である。

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アトンとはエジプト太陽神であり、唯一絶対神である。実は、エジプトでは、それまでずっと神は人格化されてきていた。アトンは、アメンホテプ4世とネフェルティティがそれに異を唱え、王権を強化する目的で、民衆に信仰させた神である。そして、アンケセナーメンにとっては、母・ネフェルティティの存在そのものでもあった。
  
次第にアンケセナーメンは、夫・ツタンカーメンとともに、絶大な力を持つ母から自立し、自らの意思で国政へ参加していく。 そして、年下の夫を支える一方で、アンケセナーメンは人間と神について考え始める。アンケセナーメンの命令により、人間と神を研究する神官・アシャの台詞がとても印象深い。
  
なぜ人間は生きる意味を知りたがるのか?
  
それは、自分で自分の人生を納得するためである。自分の人生には意味があったと思わなければ、生きた実感がつかめないから。だが、生きる意味はいくらでもこじつけることができる。結局、人間は、意味のないことをしたのではないと自分に言い聞かせたいのである。
  
それは神の存在も同じ!
  
神が生まれたのは、人間の納得したがるクセからである。この世界には、納得できないことがたくさんある。知恵でも、経験でも、努力でも。だから、納得できないこと全てを神の存在という理由にすれば、何もかもがすっきりする。それが、人間が神を作り出した理由、人が神にすがる理由である。故に、アンケセナーメンとツタンカーメンは、民衆のために、ただ在るという存在であるアトン神を復活させるのだった。
  
この物語は、古代エジプトを舞台にした壮大な叙事詩だが、その根幹は神を問い、人間の知性を問いかけた作品である。
  
最後に、作者は読者にも問いかける。作者として、知性と理性は、古代エジプトの時代と現代とでどう変わったのかはわからない。だが、わからなくても作者は考え続けていると…。考え続けることが人間なのだと私は感じた。
  

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