SFの父・ウェルズのエレガントでロマンチック、かつ奇想天外な世界

小説・エッセイ

2011/9/4

【割引版】世界最終戦争の夢

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 東京創元社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:阿部知二 価格:194円

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SFの父と呼ばれるH・Gウェルズの短編作品を読むのは今回が初めて。「モロー博士の島」や「タイムマシン」などで知られ、19世紀にあって(1866~1946)、テロリストによる細菌使用や、原子力爆弾までも予見したといわれる作家です。

その後のSF世界に影響しただけでなく、人権思想や、果ては日本の平和憲法にまでも影響を与えたといわれる彼の短編集は不可思議かつ、不安定かつ陰鬱な世界。

冒頭、南米でアリと戦わなくてはならない男たちの話「アリの帝国」はまるで作者のクロッキー帳です。あるところはディティールに懲り、あるところは設定が大まかなままでありながらも、確実に小さな「アリ」と戦わなければならない恐怖を伝えてきます。

「珍しい蘭の花が咲く」は、この花に特有なコレクターの、花に魅せられてゆく過程にすいっと引き込まれます。蘭の花が吸血するシーンも、薫りたつような手法。この時代のSFはやはりロマンチックでエレガンスが漂います。

表題「世界最終戦争の夢」。これも初めて読みましたが、当時の近未来ものとでも表現したらよいでしょうか。電車に乗り合わせた男が、同じ夢を毎晩見ると告白してくる。同乗者は、興味を引かれ彼の話を聞いてゆくのですが、話が進むほど、さてどちらが夢でどちらが現実かあいまいになってきます。

この作品が書かれたのは1901年。第1次大戦も2次大戦もまだ起こっていないことを思い出し、ぎょっとしました。この想像力。この透視力。全編を通して、きちんと終了する物語は少なく、あれ? というような終わり方をする短編も少なくありません。その意図するところはどこだろう? と考えさせられ、前作品の消化不良な後味を残しながらまた、不思議な世界が始まる…。作者が恐らく意図的に描いていった、凝ったディテールやその反面大雑把な場面設定など、アンバランスさがさらに不安定さを醸し出し、ひさびさに「余白」を楽しむ小説となりました。

SFの天才の当時にしてみれば奇想天外なアイデアのデッサン帳とでもいうような1冊。クラッシックなSF作品を読んだことがない方は、ぜひ。現代の科学と知識を網羅したSFとはまったく違った、叙情的ともいえるSFです。

「珍しい蘭の花が咲く」より。冒頭から一気に蘭マニアの世界へ

「世界最終戦争の夢」より。夢の中で愛しい恋人を選び、戦争から逃げ出す主人公

「まぼろしのまぼろし」に主人公ははまってしまったのか?

「赤むらさきのキノコ」の冒頭部。タイトルも嫌な感じなら、のっけからこれだけペシミスティックな雰囲気を醸し出すのも素晴らしい (C)阿部知二/東京創元社