かたくなに黙秘する2日間の行動に隠された感動の物語とは

小説・エッセイ

2011/8/11

半落ち

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:横山秀夫 価格:540円

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容疑者に犯行の事実を認めさせ自供させることを、警察業界用語で「落とす」とか「落ちる」とかいいますよね。でこれが、ほぼ「落ちて」るんだけど、ある一部をどうしても黙秘してしまい全面自供に至らない事態を「半落ち」って呼ぶんだと、この小説ではじめて知りました。

なかなか微妙な単語ですけど、もし「半落ち」の前に「中落ち」があるなら無実でも取調室の椅子をオーダーしたい気がします。

それはさておき、刑事としては「半落ち」のもどかしさったらないんだろうと想像がつきます。自分の仕事が中途半端に見えることをおくとしても、ピッカピカに掃除した風呂場の蛇口だけ水垢でゴワゴワというか、態勢に影響ないだけにこれ以上闘う意味もないかに見えながらすっきり快晴というわけではない。ウーン、悔しい。

3日前、アルツハイマー病をわずらう妻を自宅で殺害したとして、現役の警部梶聡一郎が自首してきた。取り調べに対し、素直に犯行を自供する梶だったが、自首にいたるまでの2日間の行動に関してだけは黙秘するのだった。その2日間になにがあったのか、「半落ち」のまま処理しようとする幹部たちを尻目に、その日梶は歌舞伎町に行っていたとマスコミがリークする。色めき立つ警察内部。はたして梶の真意はどこに。

この作品は構成がうまいですね。
梶の視線から全部を描いていくんじゃなく、「落とし屋」みたいな異名をもつ取調官や、一癖も二癖もある検察官の取り調べや、記者クラブに詰める新聞記者の取材活動や、梶を取りまく6人の外部の人間の視点からかたくなに秘密を守る彼の人間性みたいなものをジワリジワリと描いていく。このジワリジワリがラストにいたっての真相の解明をひときわドラマチックなものにしているわけです。泣いちゃったりします、けっこう涙腺の強い人でも。

なお、第128回直木賞の選考会で、どうとらえてよいか困惑させられるような理由で本作は受賞を逃したのはちょっとした事件でした。内容に深く関わるので詳しく書けませんが、調べたらすぐ出てきます。なお、著者の横山は自分の作品に欠陥はないと主張し、これ以降直木賞に決別宣言を出していてちょっとすごい。

多視点叙述という構成のうまさが目次を見ただけで分かる

別の事件とクロスさせながらジワジワと本筋に入っていくのもサスペンスフルだ

警察の日常がなにやら妙に不機嫌なのに変なリアリティがあるのである