70年代の日本に社会現象まで巻き起こしたパニック&ディザスターの古典的傑作

小説・エッセイ

2011/9/5

日本沈没(上)

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 小学館
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:小松左京 価格:615円

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2011年7月26日、日本SF小説界を代表する作家・小松左京が逝去されました。

東北地方太平洋沖地震発生の年の鬼籍入りは、なにやら暗示めいた偶然の一致を感じさせずにおきません。いうまでもなく小松には、日本中をパニックめいた社会現象に陥れたディザスター小説の古典、この「日本沈没」があるからです。

 

60年代なかばに書き始められ、73年に刊行されたこの作品を迎えたのは、ある程度の目標を達成して一段落した高度成長化社会でしたが、日本全体が海の底へ沈んでしまうというとてつもないアイデアをヒットさせた実体は、その一見豊かな社会の裏側に意識されないままにとぐろを巻いていた不安や疎外感を見事に打ち抜いていたからではないでしょうか。この時期、表向きには幅をきかせていた薔薇色の未来への希望とは裏腹に、暮らしの中で円高や石油ショックなどの出来事が人々の心をとりとめなくさせ、文化面ではホラー映画や超能力ブーム、ノストラダムス旋風といった怪しい波が吹き荒れていたのもその端緒のひとつだと思うのです。

地球物理学者の田所は、地震の観測データから日本列島になにか異常な事態が起きているのを予測し、日本海溝の異変を総合し2年以内に列島ほとんどが海底に沈む結論に達する。当初は信じなかった政府も、富士山の噴火など徐々に発生する異常事態に、日本国民を海外へ脱出させるプロジェクトを動かすが、変化のスピードは予想を大きく上まわるスピードで決定的な壊滅へと突き進んでいくのだった。

今では常識となった大陸移動説とそのパワーによる地震発生のメカニズムを、ようやく理論が認められはじめた時期にいち早く小説の中に持ち込んで詳細に語り尽くすなど、データ小説としても画期的に新しい1冊ですね。もちろん、巨大地震のふるまいやそれによって生じる災害のありさまだけを描写するのでなくて、日本国政府はどんな政策を打ち出すのだろうかといったシミュレーション小説の面白さや、もし日本という国がなくなったら日本人はどうなるのかといった深い構想まで懐にひめているので、上下巻一気読みなんであります。
  
なお、光文社文庫版の「まえがき」の最後のところに、「日本が地震列島であるという現実と、それに対応する政治的、社会的システムが、いまだに無力であるという情況に変わりはない」というフレーズのあったのが、たいへん印象的でした。

東北太平洋沖地震で被災された皆様方に、最後になりましたが、心よりお見舞い申し上げます。

発端は工事の測量が狂うなどといった些細な出来事の積み重ねで描かれていく

無人島が突如沈んでしまったなどとという兆候もある

深海一万メートルに潜れる潜水艇など、当時最新の科学データが山盛りに盛り込まれている

政治の局面で巨大なディザスターがどう扱われるか、そのシミュレーションも詳細に

コンピュータというテクノロジーも黎明期だったのだ