私たちはどこから来てどこへ行くのか 壮大なテーマを含んだ不朽のSF

小説・エッセイ

更新日:2012/2/3

百億の昼と千億の夜

ハード : PC 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:光瀬龍 価格:712円

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1960年代中期の日本SF黎明期において、すでにこんなスケールの壮大な傑作の書かれていたことに驚きを禁じ得ないのです。ここにこめられている思いは、命と死、宇宙と人の営み、不条理と神との相克、といったモチーフをちりばめながら、宇宙も含めたわたくしという現象のすべてが、どこから来てどこへ行くのか、その謎を果敢にとらえきろうとして張り詰めています。

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「寄せてはかえし
寄せてはかえし
かえしては寄せる波の音は、」

と、ある一匹の海洋生物の日々を描くことからはじまる本編で、あくことなく打ち寄せ打ち返す波のイメージは、生成消滅を果てしなくくり返す万象のシンボルとして全編にその音を響かせています。

いえ、なんか哲学の話をしてるみたいになっちゃっいましたが、決してむずかしくはないです。お話はここからプラトンの旅とアトランティス大陸の運命に飛び、仏陀たるシッダールタが登場し、ナザレのイエスが現れ、時空を超えた流れの中で、私たち誰もが心の中にいつかは抱いていた素朴な疑問、「なぜ?」、を求めていくのに、共感しつつついつい引き込まれていくことになるのです。私たちの内なる声を代弁してくれるのは物語中盤から姿を見せる少女「あしゅらおう」です。

しかしひるがえって考えてみるなら、プラトンと仏陀とイエスとを一作の中にいっぺんに出しちゃうなんて、こんな無謀がSF以外のなににできるでしょう。でもって彼らが希求した人間の真実を一つの同じ「神」というか、「超越者」といういい方をしていますが、そいつの思惑の中に探るべく少女が宇宙の生成と滅亡の中をくぐり抜けて抗議にいくなんて。こういう派手なケレンだけでもうご飯おいといても読みたくてたまらなくなっちゃいますね、わたしなんかは。

それとあれです、この作品は静かといいますか、諦観にあふれたといいますか、虚無に休らう感覚といいますか、ダウナーな味わいにほっこりと包まれているところも抜群。

間違いなく、日本SF小説の金字塔。

目次からしてちょっと鳥肌もの

書き出しは、悠久の物語の開始を暗示する

惑星地球の誕生をゆったりと語るオープニングはあたかも聖書の創世記すら連想させる