幸福だった子供時代を再現してみせる昭和40年代のレトロブック

更新日:2014/10/6

昭和40年代ファン手帳

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:泉麻人 価格:810円

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 今更昭和40年代のことなんか誰が知りたいのだろう。

 そう思いながら読み始めたのだけれど、僕が泉麻人と同い年のせいか、そうだったなあといろいろ思い出してしまい、なんだ結局僕らが懐かしむために読みたいんじゃないか、という結論に達した。

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 オヤジどものレトロ感覚をいたく刺激する本なのである。

 それにしても著者はご幼少のみぎりから、実に細かいことをノートしている、とほとほと関心はした。テレビのこと、映画のこと、歌謡曲のこと、大きな社会的事件のこと、確かにそのころあったあったと記憶を掘り返せざるを得ないあれもこれもがザックザック出てくる。「忍者部隊月光」「ウルトラマン」「麻丘めぐみ」「あさま山荘」、なんて話題が登場してそのころ自分がなにしてたか、記憶の風景がしっかり思い出されてくる。思い出してどうするのかというなら、どうもしないのである。そこが泉氏の凄いところなのだ。

 別におとしめているわけではない。なんかこう「空っぽさ」を褒めているのである。「虚無への供物」である。

 40年から49年まで、年ごとに区切りながら、サブカルチャー的な出来事を速射砲のように繰り出してくる。ふつうはこれに「面白かったなあ」だの、「レプリカの時代だったのである」だの、感想や総論がくっつけられるのだけれど、そういうこざかしい手はいっさい使われない。潔いというか、すべてを読者に任せるというか。この空っぽぶりが読み手の想像力を思いがけないくらい刺激してくれるのである。

 昭和40年代に少年期を過ごしたのは、最後の団塊チルドレンなので、この本のシェアはごっそりいるだろう。どうも昭和というのは、もっとも「思い出したい」年代なのかも知れない。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を持ち出すまでもなく、貧しかったが幸福だった時代などとことあるごとに言われるではないか。

 僕自身は、子供時代けっこうたいへんだったように記憶しているが、そこんところをすっぱり切り落として、ワクワクした気分だけを濃縮して味あわせてくれる。

 昭和40年代は戦後の貧窮から抜け出して高度成長へ向かうとば口の時代だ。世間に漂っていた高揚感みたいなものを子供も感じとって、明るい未来への幻想をまとっていても不思議ではない。そのワクワク感をこの本は読み手に届けてくれる。

 アラ還暦のお方必読の1冊である