吉永小百合主演で、モントリオールで特別賞受賞!その原作の中身とは

小説・エッセイ

公開日:2014/10/16

虹の岬の喫茶店

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 幻冬舎
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:森沢明夫 価格:665円

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 人生、晴天ばかりではなく、大雨が降る日も大荒れの日もある。そんな時を変えることも出来ずに、どしゃぶりの道の真ん中で呆然と立ちすくんでしまうことだって少なくはない。そんな時、誰かが、ふと、傘を差しかけてくれたら、どんなに心強いだろうか。

 森沢明夫氏著『虹の岬の喫茶店』は上手く行かない毎日を過ごす人にこそ読んでほしい作品だ。2012年にラジオドラマ化、2014年には吉永小百合主演、『ふしぎな岬の物語』のタイトルで映画化され、第38回モントリオール世界映画祭で審査員特別賞グランプリ、エキュメニカル審査員賞を受賞した話題作。この本は、読むマイナスイオンといえるのではないかという程、読む人の心を癒していく。とびきりおいしいコーヒーの香りと音楽の調べ、自然の織りなす雄大な景色。物語を読めば読む程、胸がほんわか温かくなるのはなぜだろうか。

 舞台は、小さな岬の先端にひっそりと建てられた喫茶店「岬カフェ」。そこではとびきり美味しいコーヒーと客に合わせた音楽を提供する熟年の店主・柏木悦子と案内犬のコタローが店を切り盛りしていた。喫茶店にはワケありなお客さんが次々と訪れていくが、悦子は客の人生にそっと寄り添い、温かい言葉ですべてを受け止めていく。しかし、多くの客が喫茶店を心の支えとする中で、年を重ねた彼女も孤独と不安に苛まれていた。彼女は一人で喫茶店を経営しながら、ときおり窓から海を眺め、いつも待ち続けていたのだ−−−亡くなった夫が描いた絵と同じ、夕焼けに染まった岬に掛かる虹。彼女はその光景を見ることができるのだろうか。

 妻を亡くしたばかりの夫と幼い娘、卒業後の進路に悩む男子大学生、悦子に思いを寄せながらも伝えられないでいる常連客など、「岬カフェ」を訪れる者はみな何か悩みを抱えている。そんな人々に悦子はいつでも明るく接する。包丁片手に喫茶店へ盗みに入った泥棒にすら、悦子は優しい。「ふふふ。あなた、悪い人じゃないわよ、きっと。むしろ良い人。」などと声をかけ、コーヒーでもてなし、たちまち更正させてしまうその明るさにどんどん惹き込まれてく。

 しかし、悦子だって毎日前向きな日々を過ごしているわけではない。「岬カフェ」のそばには甥の浩司が住んで、いつも彼女を気遣っているとはいえ、悦子にだって寂しくて誰かにすがりたくなる日もある。悲しい時もある。年をとるとは、こんなにも心細いものなのか。だが、そんな彼女の心の支えとなるのは、亡くなった夫への思いだった。一途に黄昏時の岬に掛かった虹を待ち続ける悦子。その思いは挫けることなく、叶う日がくるのだろうか。

「生きるって祈ることなのよ。人はね、いつかこうなりたいっていうイメージを持って、それを心のなかで祈っているときは生きていけるの。」
「過去を懐かしむことって、自分の生きてきた道のりを受け入れられている証拠でしょ。」
「誰かと一生に、同じものを見て感動できるのって、本当に素敵なことだと思うから」

 まるで「岬カフェ」の店主は、哲学者のようだ。言葉ひとつひとつが温かく、人の心に響いていく。「こんな喫茶店があるなら、ぜひ行ってみたい」と思わされるが、実際に千葉県鋸南町の明鐘岬にモデルが実在するらしい。「どこかにこんなカフェがあるんだ…」と思うと心の支えになるような気がする。なんとなく上手くいかない毎日を過ごしている悩める現代人必読の書といえそうだ。


「生きている」ように変化していく喫茶店

店に飾られた絵の景色を見るのが店主の夢

思いを寄せられても、店主は気づかぬふりをする

年を取るとは心細いものだ