「かわいそう」じゃない!有川浩最新作の舞台は、児童養護施設

小説・エッセイ

更新日:2014/10/21

明日の子供たち

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 幻冬舎
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:有川浩 価格:1,382円

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 「かわいそうね」という発言は、相手への浅はかな理解を示す言葉。その言葉を発した本人は、表面を撫ぜただけで相手を分かった気になって、憐憫している自らに自己陶酔しているだろう。どんな境遇であろうと、誰もが自らを奮い立たせて生きているのに、そんな無神経に言葉を発する人間があまりにも多すぎる。憐れまれることなど誰が欲しているだろう。特に理解されにくい環境に身を置く者が求めていることは、そんな薄っぺらい言葉ではなく、真の意味で理解されることではないだろうか。

 『明日の子供たち』は、『阪急電車』や『図書館戦争』などの著作で知られる有川浩氏の最新長編小説だ。今回の舞台は、「あしたの家」という名の児童養護施設。ドラマ『明日、ママがいない』騒動やタイガーマスク現象など、近年では、児童養護施設にスポットライトが当たることは多くはなったが、依然実態は理解されにくい状況が続いている。有川氏が綿密に児童養護施設を取材して描かれた本作では、そこでの生活をありありと描き出している。

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 主人公は、元営業マン・三田村慎平。気合い十分に、児童養護施設へ転職してきたが、勤務開始当日からいきなり3年目の先輩・和泉和恵に怒鳴られ、ベテランで信頼もあつい猪俣吉行からも注意を受ける始末。おまけに、施設内で「問題のない子供」と言われている高校2年生の谷村奏子にも嫌われてしまったようだ。彼は、児童たちの信頼を取り戻すことはできるのか。児童養護施設での仕事を一人前にこなすことができるのか。

 三田村は、いつでも空回りしてばかりだ。勤務開始当日、三田村が職員たちから叱られた原因は、靴箱からこぼれ落ちそうになっていた靴を片付けてあげたため。「勝手なことしないで」と和泉は苛立った声をあげたが、三田村には理由が理解できなかった。児童養護施設職員がすべきことは、子供たちの親になることではない。児童たちが自立できるような大人になるように手を貸すこと。何十人もの子供たちが暮らす施設の子供達を甘やかし続けることなど不可能なのだ。

「やっぱり、家庭に問題のある子が多いから。虐待を受けてた子もいるし。いろんな形で大人を試すのよ。過剰に甘えてきたり、逆にすごく反抗してみたり。それに振り回されないようにして。」

 三田村は児童養護施設に勤めることを決めた理由を「テレビ番組のドキュメンタリーを見て、かわいそうな子供の支えになれたらと思って」と奏子に話している。その言葉が奏子の心を傷つけることになったことに三田村はなかなか気が付けない。「かわいそうな子供に優しくしたいっていう自己満足に付き合わなきゃいけないの!? わたしたちはここで普通に暮らしているだけなのに! わたしたちにとって、施設がどういう場所かも知らないくせに!」。間違った善意こそ、悪意よりもタチが悪い。この施設にいる子ども達は可哀想なのではない。親に養育する力がなかっただけに過ぎないのだ。この本はその偏見を打ち壊す一歩となることを目指して書かれたのだろう。

 有川浩といえば、ミリタリー小説のはずだが、自衛隊は出て来ないのか…? と読み進めていったが、今回もちゃんと登場していて、これも期待を裏切らない。しかも、登場人物の初恋の人やかつて面倒を見た児童たちとの感動の再会をしっかりと用意している。もちろん、ラブコメ要素もあり! いつでも有川作品を読むと胸がほんわか温かくなるが、この作品も例外ではない。何だか心がじんわりと満たされていくこの作品を読めば、自分が抱えていた偏見、勘違い、偽善に気が付けるのではないだろうか。児童養護施設の実態がこの作品の中に、ある。


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