自由って素晴らしいなどと、気楽に決めつけない「かせ」の物語

更新日:2015/9/29

かごめかごめ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 秋田書店
ジャンル:コミック 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:池辺葵 価格:1,166円

※最新の価格はストアでご確認ください。

 とても詩的なマンガです。1話あたりのページ数は15から20ページ程度あり、特別短いわけではないのですが、コマ数が少なめなのと、とにかくセリフを絞り込んでいる印象を受けるからではないかなと思うのです。

 物語は、とある修道院の生活を描くのですが、なにか特別な中心となる事件があって、巻き込まれたり解決したりするというものではないです。淡々と綴るというのも違う。そこに暮らす修道女の心理を切り出すというのが、一番ぴったりくるかと思います。

advertisement

 中心となる人物は、シスターのマルエナさん、そして彼女と同室でジュニアのアミラさん。もとは良い暮らしをしていたらしいマルエナさんは、とても優秀でまじめな人として描かれるも、他の修道女とは少し違っていて祭祀の時に町で遭遇したコーリャのことが気になっている様子。

 同じくシスターのヴィーさんは、そんな彼女を「そつがなくて、鼻持ちならない、愛すべきシスターマルエナ」と評価しています。となると、修道女の許されない恋の話しとなりそうですが、このふたりが直接話をする場面は終盤までありません。

 その代わり、アミラさんとの出会いや、ヴィーさんと育ってきた修道院での生活などを丁寧に描き、そこに強固な絆があることを示します。絆というと、最近ではなにか大切なものとか、いいものというイメージが先行しますが、「ほだ」と読めば手かせや足かせ、自由を束縛するものという意味ですから、マルエナさんの苦悩もうかがえるというものです。

 最後はそれぞれの身の振り方について決着をみるのですが、この作品の素晴らしいところは、「これが正解」というような話し方をしないという点でした。登場人物たちが、互いの思いをぶつけ合ったりもしない。それどころか、互いの顔をみることすらない。修道院の中と外の世界が、いかに離れたものであるかが感じ取れると同時に、『かごめかごめ』というタイトルに込めた気持ちが伝わってきてゾクッとするのです。


修道院の中と外の隔絶を表す印象的な絵。作中、何度か登場する

けなげに働くアミラさんと、彼女を見守るマルエナさん

ジュニアのアミラさんに忠告するシスターのヴィーさん、そしてマザーチコリ。修道院の3つの世代が会する場面

心の底からマルエナさんを慕うアミラさん。想いが純粋で強いだけに、絆も深い…