カラダに優しくココロに美味しい。繊細に、深く味わう日常のススメ!

更新日:2014/10/26

東京膜 (クイーンズコミックスDIGITAL)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 集英社
ジャンル:コミック 購入元:Kindleストア
著者名:渡辺ペコ 価格:※ストアでご確認ください

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「大人になって味がわかるようになった」
そんなことって案外多いと思います。子供の頃は大嫌いだったのに、今では大好き! というくらい真逆に変化したモノも多いのではないでしょうか。ある人は茄子。また、ある人はミョウガ。納豆にコーヒー、ウィスキー、ワインなどなど。“オトナの味”の例には枚挙にいとまがありません。また、お出汁の美味しさが分かるようになったり、素材の味に気がついたり、より繊細な味の区別がつくようになるのも、なんだかこう大人になったなぁと感じます。
明らかな濃い味ではなく、香りともまた違った“風味”とでもいうようなフワフワした感覚が美味しいと思えるようになったりして…。

 使い古したお膳の上に、キラキラ光る透明なお吸い物が一杯。お椀から立ち上る湯気を口元に感じつつ、一口、また一口。何を味わっているかと聞かれたらよくわからないけれど、美味しいなぁ…。そんな風味の分かるオトナに、本作はぜひとも読んでいただきたい。

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 舞台は東京。そこでフツーに暮らすフツーの人々をフツーに切り取ったオムニバス形式の作品です。自然光の下で、手持ちカメラで撮りためたような物語は、飾り気もなければ、ドラマティックでもなく、ケレン味もありません。刺激物はかなり控えめ。ある新婚夫婦の距離感、ある女性と居酒屋の店員との距離感、姉弟の距離感。どれもこれも粗筋で全て語れてしまいそうなほどに淡白なのですが、独特の奥行きと生々しさがあり、噛めば噛むほどになんだかわからない旨味がじわじわと染み出してきます。

 著者自身の作品集としては最初期にあたる本作ですが、前作の『蛇にピアス』のマンガ版や、『ラウンダバウト』、『にこたま』など他作品にも通ずる淡々とした文学的風味がたっぷりです。
「地味・雑・ヘン」とは著者自身の言葉ですが、決して丁寧ではないのに大味ではない所がなんといっても本作の魅力。寝る前にさらっと飲めるお吸い物のように、カラダに優しくココロに美味しいマンガなのです。


夫婦の距離

居酒屋の距離

姉弟の距離