岡田将生主演で映画化決定!異能力の青年達が織りなすアクションストーリー

小説・エッセイ

公開日:2014/11/3

ストレイヤーズ・クロニクル ACT-1

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著者名:本多孝好 (著), 田島昭宇 (イラスト) 価格:※ストアでご確認ください

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 吐瀉物にまみれた終電の車両から解放され、ようやく地元の駅で深呼吸したというのに、外の空気はなぜだか酷く不味かった。淀んだ空気が恋しくすら感じる。もしかしたら、人間とは、長くいれば、そこが汚れていようがいまいが、その場の空気に自然と馴染もうとしてしまう生き物なのかもしれない。もし、そうだとしたら…。この物語に出てくる青年たちに救いはあるのか。「今日を生き延びるために動いているだけ」「十年後の世界のことは、十年後の世界の人が考えればいい。百年後だろうが、千年後だろうが。僕らはそう考えます」と言い切るその冷徹な姿に恐ろしさを覚えてしまう。

 『ストレイヤーズ・クロニクル』は、『MOMENT』『WILL』などの著作で知られる本多孝好氏著のアクション巨編である。岡田将生主演で映画化も決定。ACT-1はそのシリーズ全3巻の第1巻。異能力を持つ4人の青年達が巻き込まれる事件はスリル満点だが、この本の魅力はそれだけではない。主人公は恐いくらいに冷静に自らの目的を果たそうとしていくが、時にこんな日々がいつまで続くのかと葛藤している。その感情の揺らぎに読み手もまた心揺さぶられる。

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 秘密裏の実験により、運動能力、聴力、記憶力などに、特殊な力を有するようになった主人公の青年・昴は、政治家・渡瀬浩一郎の裏の仕事に関わっていた。驚異的なスピードで動くことができる隆二、遠距離の音を聞き分けることができる沙耶、一度見たものは全て記憶できる良介とともに、同じ施設で育った4人で働いているが、彼らが渡瀬の元で働くのは、仲間の亘を人質にとられているためだ。強い怒りを感じながら、昴たちは裏の仕事に従順に取り組まざるをえなかった。そんなある日、世間を騒がす殺人集団「アゲハ」を捕まえろと命じられるが、昴たちは、アゲハが自分たちと同じく実験体だったことを知る。昴たちはアゲハを捕まえることができるのか。また、亘を救い出し、渡瀬の魔の手から逃れることはできるのか。

 渡瀬浩一郎は自分の欲しいものを手にするためだったら手段を選ばない。昴たちのことも道具としか思っていないのだろう。いかに利用し、そして、捨て去るか。そればかりを考えている彼の姿に薄ら寒い思いがする。殺人集団「アゲハ」の存在もあまりにも不気味だ。人の目には止まらぬ早さで動き、ターゲットを殺していく。どうやらアゲハは自らの運命を呪い、その誕生に関係した人物を次々と殺害しているらしい。

 昴もアゲハ達と同様、自身の運命を恨んでいる。だが、自らを雇う渡瀬や自らの出生に関わる者達に強い殺意を抱きながらも、アゲハと同じようには行動しない。怒りに任せて行動しないのも、無茶をしてしまうのも、守るべき者があるからだ。昴には、隆二、沙耶、良介、そして、亘という大切な仲間がいる。大切な人の存在は人を強くもすれば、弱くもする。昴の強さは、そして、弱さはそこにあるのだろう。アゲハとの決定的な違いが、彼を唯一、人間たらしめている。特殊能力を持つ運命を背負い、年齢に見合わない冷徹さを持ちながらも、彼は心の底では仲間も思いやれる温かさも持ち合わせている。

 避けては通れないアゲハとの因縁の対決の先に何があるのだろうか。渡瀬は昴たちを使って何を企んでいるのだろうか。その手から逃れ、仲間を救い出すことはできるのか。田島昭宇氏の挿絵も惹き付けられる。2015年の映画公開前にぜひともこのシリーズ3冊は読んでおくべき作品だろう。


渡瀬からの依頼は絶対だが、友人を人質にとった彼に昴は殺意をもっていた

昴たちの冷徹な姿に周りの者は驚きを感じる

田島昭宇氏の挿絵が作品の世界観とマッチしている

アゲハと昴の違いは吉とでるのか、凶と出るのか