犯罪すら隠し通す?辻村深月が描く閉鎖的な田舎の実態

小説・エッセイ

公開日:2014/11/4

水底フェスタ

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著者名:辻村深月 価格:0円

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 この前、中学まで3人しか同級生がいなかったという地方出身の男性と話す機会があった。自然に囲まれた村で生まれ育った彼の性格はおおらかで漂わせる雰囲気が彼の故郷を彷彿とさせた。故郷は住む者の人となりを作り出す。それはこの人に限った話ではないだろう。それにはもちろん良い影響もあれば悪い影響もあるに違いない。辻村深月氏著『水底フェスタ』は、閉鎖的な「村」という世界にとらえられた人々を描き出す、ヒューマンホラー小説。この本の登場人物たちは、故郷を嫌いながらも、故郷の悪習から抜け出すことができないでいる。地縁に縛られ、身動きがとれない彼らの姿は、なんと醜く、悲しいことだろう。年一度の大規模なイベントを受け入れながらも、古い因習に縛られた世界に閉塞感を覚えている高校生の苦しくも悲しい恋をおどろおどろしく描き出している。

 舞台は、5大音楽フェスティバルの1つ・ムツシロックが観光の目玉になっている過疎地域・睦ツ代村。村長の息子で高校生の涌谷広海は、ある日、村を捨てて東京で活躍していたモデル・織場由貴美が突如帰郷してきたのを目撃した。ふとしたことから関わりを持ち、彼女の美貌や雰囲気に魅了された広海は、「村を売るために帰ってきた」という由貴美から村長選挙を巡る不正を暴くことを唆される。由貴美の目的は何なのか。彼女が本当に欲しいものは何なのか。2人が巻き起こす更なる悲劇とは?

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 近所の目ばかりを気にしながらも、息子の友人で問題児の日馬達哉を可愛がることでちっぽけな優越感を満たしている母親・美津子。親同士が決めた勝手な結婚の約束を信じて広海に付きまとう幼なじみ・門音。広海は村で年1回開催されるロックフェスの魅力も分からないような視野の狭い仲間たちに辟易としていた。由貴美は、自身の母親が死んだ原因を、広海の父親で村長の飛雄が原因だと信じているようだが、広海にとって、父親は唯一、彼の考えを理解する人だった。田舎の悪習に縛られずに、外の世界を知り、広海と一緒に音楽を楽しむ父親は裏で何をしているのか。本当の姿が明らかになるにつれて、広海の苦悩は増していく。

 人はひとりで生まれ、ひとりで死んでいく。所詮、父親とも母親とも他人同士。真の意味で互いを理解し合うことはできない。そんなことは分かっている。だが、広海が幼い頃から心から頼りにしてきた人達の裏の顔が見えてくるにつれて、胸が苦しくなる。利用されていると分かりながらも広海が恋いこがれてしまう由貴美の目的も狂気じみている。閉鎖された空間に閉じこもれば人は狂ってしまう。ほのぼのとしたイメージであるはずの「田舎」という言葉の恐ろしさが滲み出た1冊。


ロックフェスの会場となるような田舎の村が舞台。設定がありえそうなのが余計に恐怖をそそる

村長である父親は広海にとって偉大な存在

由貴美と関係を持ってしまう広海

異常な復讐劇が繰り広げられる。由貴美は村を嫌悪しながらもそこから逃れられない。広海も同じだ