58歳のこそドロオヤジ。中世が舞台の癒し系主人公に大抜擢!
公開日:2011/11/1
2008年上期 講談社X文庫ホワイトハート新人賞受賞作。
舞台は、中世の雰囲気があふれる大国アースガルド。58歳の主人公・カンダタは、今日もこそドロ家業にいそしむ。お縄につけば、即刻闘技場に送られ、待っているのは公開処刑。そうはいっても生きていくため。離婚して前科者、怖いものはなにもない。
「さあ、行くぞ俺。世紀の大泥棒カンダタ様の出陣だ」
忍び込んだ豪邸で出会ったのは、絶世の美貌の持ち主。一見、美少女。しかしそれは、闘技場の覇者・剣士イヴァンだった。…といった冒頭で、読者を物語に引きこんでいきます。
ホワイトハートで58歳のオヤジが主人公、というところで、まず意表を突かれます。
美少年と老年というと、トーマス・マンの『ヴェニスに死す』を思い浮かべる人がいるかもしれません。
本作でも、倫理観と善悪について考えさせられます。
発達心理学では、子ども…特に幼年期には、善悪の判断を養うために、勧善懲悪モノのストーリーがよく用いられます。つまり、悪者は最後には必ず報いを受け、正義が勝つという、わかりやすい物語です。そして、善悪の判断が備わり、児童期以降、より複雑な人間模様や心情を描いた作品に触れていきます。
ところが、今では、例えば幼稚園などで童話『赤ずきん』で、最後にオオカミが猟師に射殺されず、改心し、登場人物がみんなで手を取り合って仲良くハッピーエンド…という、悪者なしの終わり方をするパターンもちらほらあり、保育関係者はじめ、賛否両論の意見があります。
ここで、『赤ずきん』の例の善し悪しをいうつもりはありません。本作は、若者から大人向けの作品です。倫理観、善悪がはっきりさせられないストーリーにこそ、世の中の真実を見いだせる、とも考えられるかもしれません。カンダタの生きる意志が、どのような展開を見せ、結末を迎えるのか、確かめてみてください。
このレーベルで意表をつく斬新な主人公
横組みにしても読みやすい
気分次第で、文字を大小させたり、文字組みを変えたりしてみよう。読み味が変わってくる