ホームズやポアロにひけをとらない名探偵! 謎解き爽快感と悲哀に満ちたミステリー

小説・エッセイ

更新日:2012/3/5

トーキョー・プリズン

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:柳広司 価格:712円

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柳広司さんにハマったのはご多分にもれず『ジョーカー・ゲーム』がきっかけですが、こちら『トーキョー・プリズン』も、文体の軽妙さと思わず引き込まれてしまう個性的なキャラクター、二転三転する展開は負けていません。

個性的ないわゆる「名探偵」の出てくる小説を読みたい方には特にぴったりの一作。そしてたとえば堤幸彦監督のドラマ(映画)『TRICK』のように、笑い、ユーモア、奇抜さ、なおかつ「哀しみ」のある謎解きが好きだ、という方にもおすすめです。

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主人公はニュージーランドからやってきた元私立探偵・元軍人のフェアフィールド。第二次大戦中に行方不明になった相棒でありいとこであるクリスの消息を求めてやってきた巣鴨拘置所で、死刑裁判が延期中の元軍人・キジマの記憶をとりもどすという任務を与えられます。折りしも拘置所内は、不可解な殺人事件が頻発。さてこの二件、どう関わってくるのか…というのが大まかなあらすじです。

戦後日本が舞台とくれば、それだけで、割り切れない人の感情が描かれるのは必至。キジマという、安楽椅子探偵のような変人かつ奇抜な記憶喪失男にくわえて、ありえない状況で起こる謎の変死事件。そしてそれを語るのは、やはり変わり者の主人公…。最後の最後までひっくり返され続ける真相も、文句なしでおもしろい。構成も巧みでぐいぐい引き込まれる。

しかも、種明かしを知ってなお、読み返してもいつも新鮮なおもしろさがあるのです。

心に残るミステリーにはかならず「哀」がある気がします。

もちろん壮大・奇抜なトリックへの驚き、謎解きの爽快感もミステリーの醍醐味ですが、人の生き死にである以上、そこに感情が見えてやるせなさを感じると、いっそう心に深く刻まれる。折々にユーモアがあればなおいっそう。

この読後のやるせなさはなんだろなーと考えていたとき、このあいだテレビでやっていた『劇場版TRICK』を思い出したので冒頭の文句になったわけですが、すべりこんでくるような柳さんの筆致はふだん小説を読みなれていない人にも魅力的なはずなので、一度でも「謎解き」「ミステリー」を面白いと思ったことがある方は、ぜひご一読を。

冒頭のこんな些細なやりとりも、実は謎解きに少し関わってきます。探偵小説の醍醐味!

元私立探偵で元軍人の主人公も、じゅうぶん「変わり者」