読者も癒す、ぶっとび精神科医のはらはらカルテ
更新日:2012/3/7
人間不信のサーカス団員、尖端恐怖症のヤクザといった患者たちが困り果てて行った病院が、伊良部総合病院。
きっと治してくれるはず。そう思って訪れた病院には、巨乳の看護婦と巨体の精神科医が待ち受けていた。とんでもない精神科医・伊良部の元に、一風変わった患者たちが続々と訪れる…。第131回直木賞受賞作品。
精神科を訪れるとき、人は、自分の状況を憂い、「どうすればよくなるのだろうか…」と気分を沈み込ませている。しかし、精神科医・伊良部に会った途端に、どこか気が抜けてしまう。
とぼけたことを言い、やたらと注射を打ちたがる(変態)精神科医。しかし、ぽよよんとした巨体のせいで、なんとなく患者側も気が抜けてしまう。それが、伊良部医師の作戦では? と思わせられるのだが、本人は何も考えていないような…。
患者側の視点から描かれているので、伊良部医師に対して次第に変わっていく感情、症状がとてもよく分かる。何もしていないように見えて、しっかりと解決の糸口を掴んで終えているのだ。伊良部医師自体は楽しんでいるようにしか見えないのだけれど…。コミカルに描かれるその情景は、思わず読んでいて笑みがこぼれてしまう。
個人的に気に入ったのは『義父のヅラ』。
強迫神経症の達郎は、突然、非常ベルを鳴らしたくなる。廊下を欽ちゃん走りしたくなる…と言った症状に悩まされていた。そして、義父の分かりやすいヅラをはぎ取ってしまいたい衝動にしばしば駆られる。その衝動は、人が多ければ多いほど強くなる。分かりやすいほどヅラなのに、妻も何も言わない。達郎は悩む。そんな達郎に伊良部が行った治療とは…。
殺人も、誘拐も、深刻な事件は何も起きていないのに、その展開に息を呑み、笑いがこぼれる。読み始めたら最後まで読まなければ、気が済まない。
達郎はこの精神科のことを「この診察室は観覧車だ。乗ったら一周する間、そのペースに合わせるしかない」という。この作品自体が観覧車、なのかもしれない。
5作品の短編からなるこの作品
書式がいろいろと選べるので、読みやすいものをセレクトしてみると良さそう。こちらは横書き
これだと、なんとなく目に優しいような
気になる文章には、蛍光ペンでチェック