『資本論』『沈黙の春』『種の起源』…池上さんが「世界を変えてしまった10冊の本」を解説した本がおもしろい!

更新日:2015/9/29

世界を変えた10冊の本

ハード : 発売元 : 文藝春秋
ジャンル: 購入元:KindleStore
著者名:池上 彰 価格:※ストアでご確認ください

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 世界というのはなかなかな粘り腰のタマなものだから、めったに変貌することはないのであるが、万一変わるとすれば、たいがいがお金のせいと相場が決まっている。たとえば、縁起の悪い話で恐れ入るものの、もし東京直下型の大地震が襲ってきた場合、場所としては関東の一地域が壊されるのみで、別に、ドミノ式に世界が焼け野原となって崩れていくと思う人はいないだろう。けれどその災害は、おそらく経済壊滅の悪しき波を引き起こし、波頭は地球全土に広がって、世界の相貌を一変させるに違いない。その凄惨ぶりは並みの経済破綻の比ではあるまい。

 しかし待て、と私はいうのである。経済よりも、というか経済に見放された赤貧のため、ぐっと文化系よりの私にしてみれば、もっとなにか人の命のエネルギーを強く動かす仕掛けがこの世には存在するんじゃねえの、とすねるのである。その背中を、ありがたくも押してくれるのが池上彰氏のこの書物であったのだ。

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 世界を変えてしまった10冊の本がある。

 実に頼もしいお考えだ。ゲンナマという「もの」でなく、思想というソフトウェアがこの世をダイレクトに変革してみせた実例を語るのだ。ちょっと背骨に刺激が走るじゃない。

 さて、登場する10冊をずらっと並べるならば、『アンネの日記』『聖書』『コーラン』『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』『資本論』『イスラーム原理主義の「道しるべ」』『沈黙の春』『種の起源』『雇用、利子および貨幣の一般論』『資本主義と自由』という具合になる。

 しかしこれ、逆に言うと、高校や大学の授業でチラッと耳にした覚えはあるのに、ちゃんと読んだことがない本の親玉たちということになるのではないだろうか。かくいうわたくしも、『アンネの日記』と『聖書』をかじったくらいで、『資本論』なんて囓ろうにも歯が立たないなんつうシャレみたいな歯ごたえのない身の上。人生をまじめに思いやって歩んだ崇敬すべき先人や、また同時代の勉学の徒、読まれているんでしょうなあ、わたくしめ、お恥ずかしいこと千万であります。

 そんなわたくしにとって、本書の到来は鴨ネギの歓喜、まあ少し比喩は違っているがとにかく本書は、その10の書物の内容を、わかりやすく丁寧に、しかもやさしく解説してくれるから面白い。知の喜びというやつである。

 なぜやさしく解説できるかというと、池上が本の中身を深く理解しているからだ。教養人の力というものに圧倒される。

 たとえばマルクスの『資本論』の、「使用価値」と「交換価値」と「余剰価値」なる、実際に読んでもチンプンカンプンのえらく難解な概念を、働くものと雇うものの関係を引き合いに出して、さらりと解き明かしてしてしまう。おお、そうだったのか、資本主義の正体はそうなってたのね。たとえば『聖書』のありようを、歴史におけるアラブとユダヤのそもそもの確執から解きほぐし、平易に解説する。だいたい、キリスト教とイスラム教のあがめる神様がもともとはおんなじ神だって知ってました?

 とにかく読もう。読んで本の力を再認識すると同時に、世界の真の姿を知ろうではないか。本当に読んでほしいのは、バーチャルなゼニで世を動かしている大人たちになのだが。


「まえがき」で本というメデイアのダイナミズムを宣言する

少女の日記がどう世界を変えたのか

わかりやすさが発信の鍵

『新約聖書』には4つの福音書のほかにもいくつかの外典・偽典が存在する

『種の起源』はそれまでのキリスト教による秩序を根底から覆した。まさに天地をひっくり返したのである