中国マフィア、半グレ集団…「餃子の王将」社長殺害事件を大胆に推理する1冊

公開日:2015/1/24

餃子の王将社長射殺事件

ハード : 発売元 : KADOKAWA / 角川書店
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著者名:一橋文哉 価格:※ストアでご確認ください

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 2013年、年も押しせまった12月、京都伏見で発生した、「餃子の王将」社長・大東隆行氏の殺害事件はかなり衝撃的だった。覚えておられる方も多かろう。本社向かい側の駐車場で、降車したとたんに四発の銃弾を喰らい、命を落としたのだ。近隣に住む誰からも事件にかかわる証言がなかったばかりか、会社側もいっさいのトラブルを否定した。殺人に至るプロセスも、またその動機も、手がかりがない。市民社会という殻にかこまれて、禍々しい凶行など無縁と収まっている私たちにすら、突然、死にかかわる不条理が、理由もなく襲いかかる。そんな不気味きわまりない非日常が今や入りこんできていると、生活の足もとをおびやかされたのである。

 だが、我々の危機感を救うように、著者はこの殺人事件を企業テロだと断ずる。大東社長は、個人への恨みでなく、会社への怨恨による、スケープゴートだったと主張するのだ。だったら私たちはそれほど怖がる必要もない、なんて安穏な気持ちになっていいのかどうか、それはまた別の話で、会社がいっさいのもめ事を否定するのは、実は因子が重大であるゆえ、隠しているのではないか、著者は、裏を取るための取材に取りかかる。

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 冒頭は、終戦直後に満州から引き上げてきた「リン」と名のる婦人へのインタビューがおかれている。満州での苦しい暮らしのなか、ひとりの日本人将校が母親とねんごろになり(このねんごろがどれくらいの関係なのかははっきりと書かれていないところに曖昧さを感じるものの)、なにかと便宜をはかってくれたという。私が万事助けてあげようという将校を頼みにし、すっかり頼りにしていたところ、敗戦とともに彼はあっという間に姿を消してしまった。それからの引き上げの苦難たらなかったと老女は語るのである。その将校の名が「カトウアサオ」。実はこの名が大東社長の二代前、「餃子の王将」の創業者・加藤朝雄と同じ読みなのであった。加藤朝雄には、確かに満州で陸軍の将校として従軍していた過去があった。

 ここから著者の筆致は、中国マフィアの実態に飛び、あるいは半グレ集団(暴力団に属さず犯罪を繰り返すものたちの呼称であるらしい)、新興宗教団体、新華僑コネクション、と大きく広がっていく。広がっていくあまり、ほとんど奔放といえるほど推理の糸はこんぐらがっていく。

 すべて、日本の犯罪事情も、欧米並みに、実行犯が主犯からの依頼を受けて犯行をおかす事態まで悪化してきているという前提からの、いわばからめ手の取材方法なのだが、それでは本書の始まりに記された老嬢と加藤朝雄の因縁はどこへ行ったのか。満州の将校「カトウアサオ」と「餃子の王将」創業者が同一人物だとは確定されていない。このエピソードは浮いている。浮いているのはこればかりではない。

 たとえば、事件当日、中国から日帰りをした中国人女性がいたという事実を元に、彼女がヒットマンだったのでは、と推理するが、これにまつわる事実の裏付けはほしい。

 なんかこう、すべてのエピソードが浮島のごとく点在している感じにも思える。

 しかし、浮島には浮島の楽しみがある。橋を架ける喜びである。そうして景観を愛でる面白さである。天橋立みたいなもんだ。ひとつひとつの逸話の、どことどこが結びつくか。そうするとどんな絵柄が浮き出してくるか。そのためのヒントはちゃんと本書に仕組まれている。


動機をもつ主犯と雇われた実行犯と二重構造の複雑な事件だったのではないか

「リン」という満州引き上げの老女と会う

カトウ・アサオの名が浮かび上がる

謎をはらんだ不可解な事件だった

大東氏は四発の銃弾を正面から喰らい、15分も置き去りにされたまま死に至った

中国人ヒットマンの影が浮上した

大連への進出に絡むトラブルからも中国マフィアの関与が疑われる