自分が食べているものがどこでどのように作られているか、もっと関心をもとう

更新日:2011/9/5

食う。百姓のエコロジー

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : インタープレイ
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:eBookJapan
著者名:田中佳宏 価格:648円

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世界の人口は増え続けているのに、農業人口は減り、都市部が拡大して農地が減り、作物を育てる肥沃な土は流出し続けている。この状態がこのまま放置されれば、今でさえ世界中には飢餓に苦しむ人がいるのに、この先どうなるのだろうかと思う。
  
農業や漁業など、人が生きていくために最も重要な食に関する職業に従事する人が減り、サービス業が伸びてそこにばかり人が集まるのは(自分もその中にいながらも)不健全だとずっと思ってきたが、この本を読んでその気持ちを新たにした。

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日本の穀物自給率は29%だそうだ。アメリカやオーストラリアなど国土が広い国以外は、先進国はどこもそんなものかと思っていたが、フランス、スウェーデンは120%、イギリス、西ドイツ、ルーマニアなども100%を超えている。著者は自分の食うものくらい自分で作るのが基本だと言っているが、その通りだと思う。国内で消費される分の食料は極力国内で生産すべきだろう。穀物自給率29%という数字は危機的だ。
  
近年、少しずつ農業に魅力を感じて、自分で野菜作りをする人が増えている。日本の友人の1人が最近農民に転向し、1人は会社に出勤前に畑で野菜作りに精を出している。私が住むニューヨークでも、農業の重要性と魅力に惹かれて農業を始める人がいる。マンハッタンのグリーンマーケット(青空市場)で新鮮な野菜を売っている人たちを見ると、もちろん苦労はあるだろうが、なんだか楽しそうでうらやましい。農業は重労働なのにお金にならないというイメージがあったが、少しずつそうしたイメージが変わってきていることに、少し希望を感じる昨今。
  
この本を読んでいていろいろ発見があったが、そのひとつは日本の稲作は優れた持続可能な農業であるということ。アメリカでは広大な平地で地下水を使って大規模な稲作を行っているが、日本では山から得られる雪解け水を利用して、稲作を行う。日本人は山に稲作のための水を貯える目的で木を植えたという。山の木は葉っぱを落として肥沃な土を作ってもくれる。
  
アメリカの平地で行われる大規模農業は、いつか地下水を枯渇させるだろうし、土地はやせていくから化学肥料を使うしかない、ということになる。日本は山が多くて平地が少なく、従って農業には不利だと思っていたが、山があるからこそ、日本の農業は持続可能な農業になり得た。食料の自給率の向上と農業や漁業の持続性を高めることは、重要な課題だと思う。

人が生きるために食料が必要である以上、食料を生み出す母体である一定量の自然が必要だ。世界の人口が増え続け、反対に自然が減り続けてそのバランスが崩れればどうなるかは自明である

さまざまな視点から、“食う”ことと農業について論じる

焼畑農業のように自然を破壊せず、自然と共存できる点で日本の農業は非常に優れている (C)Tanaka,Yoshihiro 1996