娘をも捨て駒にする、冷血な戦国大名・宇喜多直家が抱える悲哀 【直木賞ノミネート作】

小説・エッセイ

2015/2/19

宇喜多の捨て嫁

ハード : 発売元 : 文藝春秋
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著者名:木下 昌輝 価格:※ストアでご確認ください

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 自分の世界の法律となるのは、普通ならば、第一に自身の矜持だろう。だが、矜持は人を強くすれば、弱くもする。そればかりに固執しないところに、本当の強さがあるかもしれない。いざとなれば、善にも悪にもなる。そんな戦国武将の論理を描いた作品がある。

 木下昌輝著『宇喜多の捨て嫁』は、「オール讀物新人賞」を受賞し、第152回直木賞候補作にもなった話題作。血も涙もない邪悪な戦国大名として知られる、宇喜多直家を主軸とした6編の短編は、戦国の世を今この場所にありありと蘇らせてくれる。一体、宇喜多直家にはどんな信念があるのだろう。何を大切にしているのだろう。一見すると、この男にプライドがあるとは思えない。矜持のかたまりと言っても過言ではない戦国武将、そして、女たちを前に、この男は何ともふてぶてしい。だが、極悪非道なこの男のことが、次第に気になってくるのはなぜなのだろうか。

 一番、心に残ったのは、表題作の『宇喜多の捨て嫁』。当時、戦国大名は、血縁の娘を政略結婚させることは少なくないが、宇喜多直家も例外ではなかった。血のつながった娘を他家に嫁がせ、油断させた上で寝首をかくというのが、直家のいつもの謀略。直家の四女・於葉は嫁に出されることとなったが、当然、父親への怒りを募らせている。卑怯ともいえる直家の策略に娘は強く反発する。

 戦国武将たちには、それぞれの理屈があり、矜持がある。女もそれは同じだ。於葉は自身の信じる道を全うすることを目指す。「父上、私はもう宇喜多の娘ではありませぬ。後藤勝基様の妻です」「父上と戦います。後藤家の妻として、最後まで戦い、そして勝ちます」。気が強く、剣術の名手でもある於葉は一体どんな未来を切り開くだろう。

 直家は古傷から血が大量に滲み出るという「尻はす」という奇病にかかっている。まるで人々からの恨みが身体にまとわりついているかのようだ。直家を始め登場人物それぞれが秘めた苦悩や覚悟が次第に明かされる中で、次第に強くなる血膿の匂い。直家が密かに抱えている孤独。覚悟。戦乱の世、下剋上の本当の意味がわかる1冊。


「捨て嫁」と蔑まれる於葉

父親に反発するも、父親は何食わぬ顔でいる

男勝りな様子に夫からからかわれる於葉

幼き日の直家の様子から死する日の様子まで。彼の一生を知ると、一概に「悪人」とはいえないように思える。戦国武将の切なさや悲哀が詰まっている